第32話 妹はもう想いを抑えきれない

 春太の予想に反して、着替えは用意されていた。

 パーカーにジャージのズボン、下着までしっかりあった。


「あいつ、いつの間に……」

 どれも見覚えのある服だった。

 雪季ふゆたちの引っ越しの際に、兄妹共用のクローゼットも整理された。


 春太はいくつか服が見当たらなくなっていたことには気づいていたが、どさくさでゴミに出してしまったと思っていた。

 雪季がこっそり持ち去っていたらしい。

 なんのために持っていったのかは、考えないことにする。


 春太はリビングのソファに座って、スマホを眺める。

 セーラー女子たちを連れ去った松風からの連絡はない。

 だが、あの友人に任せておけば大丈夫だろう。

 春太は、いろいろな意味で松風のことをよく知っている。


「雪季ー! ちょっと飲み物もらうぞ!」

「どうぞー」

 風呂を出ると自室に戻っていった雪季の声が聞こえてきた。


 以前なら、そんなことを雪季に断る必要はなかった。

 しかし、ここは桜羽家ではなく、冬野家なのだ。

 春太は冷蔵庫からオレンジジュースを取り出す。

 雪季の好きな飲み物で、桜羽家でも常備していた。

 熱いくらいにあたたまった身体に、冷たいオレンジジュースが心地良い。

 コップを丁寧に洗って、振り向くと――


「ん?」

 音もなく、雪季がリビングに現れていた。


「……って、なんだその格好は?」

「夏の少女です」

「秋だよ」

 十月とはいえ、このあたりは既にかなり冷え込んでいる。

 おかげで、危うく凍死しかけたばかりだ。


 にもかかわらず、雪季は真っ白なワンピース姿だった。

 ノースリーブで、丈も短く、華奢な肩や二の腕、白い太もももあらわだ。


「寒く……はないか。暖房全開だもんな。でも、なんでそんな服なんだ?」

「だって……中三の夏の私を、お兄ちゃんに見せられませんでした」

「…………」

 写真では、こちらの中学の制服やジャージ姿を何度も見ている。

 だが確かに、春太は夏の雪季を一度も自分の目で見ていない。


「しかし、その白ワンピはずいぶん狙ってるな」

「ここ、高原ですから。避暑地で白ワンピの少女って、ポイント高くありませんか?」

「高い。しかも、黒髪だもんな」

「うっ……か、髪の色のことは言わないでください」

 雪季は、あうあうと唸って自分の髪を撫でる。


「今時、髪を染めるのもダメなんて厳しすぎますよね」

「そういう学校、少なくはないだろうがな」

 偏見かもしれないが、田舎の学校ほど厳しいと春太は思っている。


「髪が黒くても、雪季は可愛い。その白ワンピも最高に似合ってる。自分の目で見られてよかった」

「お兄ちゃんに褒められるのが一番嬉しいです。いいですよね、お嬢様ワンピ」

 雪季はにっこり笑って、くるりと一回転する。

 短い裾がふわっと舞って、その下の白いパンツがちらりと見える。


「……パンチラには気をつけろよ」

「私のパンチラ、久しぶりですよね。どうですか?」

「可愛い。やっぱ、白が一番似合うな、雪季は」

「お兄ちゃんになら、いくら見られても平気……ではないですけど、恥ずかしいですけど、嬉しいんですよね」

「露出癖に目覚めたのか?」

「ちょっと口が悪くなってませんか、お兄ちゃん?」

 じとっと、睨みつけてくる雪季。


「冗談だよ。いや、パンツがどうこうとか……言わないほうがよかったか」

「いえ、もう大丈夫です。お兄ちゃんがいれば……なにも気になりません」

 どうやら、雪季は盗撮されていたことは気にしていない――

 そんなわけはない。

 セーラー女子たちの口ぶりでは、何度もスカートの中を撮られていたようだ。

 中学生の女子が、同性にとはいえそんなところを撮られて傷つかないはずがない。


「雪季。無理はすんな。ずっと気づいてやれなくて――本当に悪かった」

「……いえ、本当に無理はしてません。だって……」

 雪季は、すすっと滑るようにして春太に近づいて――抱きついてきた。

 薄いワンピースの布地越しに、雪季の柔らかな肌の感触が伝わってくる。


「雪季……?」

「だって、だって……んっ」

「…………っ!」

 雪季は軽く背伸びをすると、春太と唇を重ねてきた。

 ちゅうっと強く春太の唇を吸い上げるようにしてくる。


「ふ、雪季、おまえ……」

「だって、お兄ちゃんに会えたら……もう他のことなんてどうでもいいです。お話なんてどうでもいいです。ただ、私は、私は……」


 雪季は、もう一度キスすると春太の首筋に腕を回して上目遣いに見つめてくる。

 その大きな瞳はうっとりとしていて――


「お兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんっ♡ お兄ちゃんお兄ちゃんっ、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんっ♡、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん♡お兄ちゃん♡お兄ちゃん♡お兄ちゃん♡お兄ちゃん♡お兄ちゃん♡お兄ちゃん♡お兄ちゃん♡、お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんっ、お兄ちゃんっ…………♡♡♡」


 雪季は甘えた声で春太を呼びながら、顔を寄せて抱きつき、すりすりと頬ずりし、春太の胸に額をつけ――ちゅっとキスしてくる。


「ふ、雪季……」

「お兄ちゃん、好きっ……やっぱりお兄ちゃんのそばにいたいです……!」

 春太は、今まで見たことがないほど猛烈に甘えてくる雪季に――


 もう、たまらなくなってしまう。


「雪季っ……」

「お兄ちゃんっ……!」


 春太は雪季の華奢な身体を抱き寄せ、唇を重ねる。

 あの夜の公園でたった一度だけ味わった、甘い唇。


 一度だけで終わるはずだったのに――

 雪季のほうからすがるように抱きつかれ、キスされたら――あのときの感触がよみがえってしまった。


 春太は夢中になって、トロけそうに柔らかい唇をむさぼる。

 小さくて薄い唇を自分の口の中に含むようにして味わい、ちゅるちゅると音を立てて吸う。

 春太が強く唇を押しつけると、雪季のほうも同じようにしてくる。


 互いに唇を押しつけ合い、時にははむはむと唇を甘噛みし、強く吸い上げる。

 ちゅっちゅっ、ちゅるちゅると音を立てながら、春太も雪季も唇を重ね、放してはまた重ねる。


 少し唇が痛いくらいだったが、春太はかまわなかった。

 雪季も同じだろうに、さらに強く唇を押しつけてくる。


「ふぁっ……お、お兄ちゃぁん……♡」

 唇が離れると、雪季はトロけきった声でつぶやいた。

 その声が可愛すぎて、春太は雪季の華奢な身体をぎゅっと抱きしめる。


 壊れてしまいそうなくらい細い腰を抱き、腕を少しずつ持ち上げていき、背中を強く抱く。

 雪季も同じく春太の背中に腕を回し、ワンピースの裾をはだけさせながら、太ももも押しつけてくる。


 柔らかで弾力に満ちた身体が、春太にぴったりと密着している。

 強くくっつきすぎて、二人の身体が溶け合いそうなほどだった。


「お兄ちゃ……んっ……!」

「…………っ!」

 先に舌を差し込んできたのは、雪季のほうだった。

 小さな舌が春太の唇を押し開き、ねじ込むようにして口内に入ってくる。

 春太は一瞬驚いてから――お互いに舌を絡め合う。


 熱い舌先をくっつけ、こねるようにしてぐいぐいと絡め、さらに吸い上げる。

 ちゅうっと音を響かせながら、雪季の舌を吸い、また激しく唇を重ね、こちらからも舌を差し入れる。

 雪季の口内を蹂躙するようにして舌を荒々しく動かしていく。


「ふっ、んっ……んんっ……! んっ、おにいちゃ……あむっ、んんっ……!」

 互いに唇をむさぼり、舌を絡め、吸い合い、じゅるっと音を立てながら唇が離れ――どちらかの、あるいは両方の唾液が糸を引いた。


「はっ、ああっ……お兄ちゃん……」

「雪季……」

「お兄ちゃん……んっ、んむむ……!」

 一度離れたかと思うと、また荒っぽく唇を求め合う。


 春太は雪季の細すぎるくらいの身体を強く抱き、彼女もその二つのふくらみや、ほっそりした脚を押しつけてくる。

 柔らかな唇の感触、熱い舌先、中学三年とは思えないボリュームの二つの胸、めくれ上がったスカートの下にある白い下着。

 すべてが圧倒的に扇情的で、トロけるほどに甘く、味わうほどに堕ちていく。


「はうっ、ふうっ、ふうっ……」

「……あ、わ、悪い……苦しかったよな」

 春太は、ふと雪季が息を荒げていることに気づいた。

 一度、雪季の身体から手を放そうとして――


「んっ……んむっ!」

 雪季は、さらに強くしがみつくように抱きついて、唇を重ねてきた。


「息なんかできなくていいから、もっとお兄ちゃんとキスしたいです……」


「ああ……!」

 春太は雪季を抱きしめ、しつこいくらいに唇を重ねていく。

 雪季の可愛い唇を味わい、ちゅばちゅばと音を立て、舌をねじり合うようにして絡め、また唇をむさぼる。


「んんっ、んっ、んんーっ……んっ、お兄ちゃ……んっ、んむ……!」

「雪季っ……!」

 いったいどれほどキスしていたのか――

 気がついたときには、雪季はリビングのソファに倒れ込むようにして寝転んでいた。


「はっ、はぁっ、はぁっ……お兄ちゃん……♡」

 白いワンピースの肩紐はズレて、華奢な肩が剥き出しになり、白のブラ紐もあらわになっている。

 裾も激しく乱れ、めくれて、白のパンツもほとんど見えてしまっている。


「お兄ちゃん、私……ずっとお兄ちゃんに会いたかったです……たった数ヶ月ですけど、それでも……もう、会いたくて……」

「俺だって、そうだ。雪季とずっと会いたかった……」


 春太は雪季にのしかかるような体勢になって、今度は軽く口づけた。

 身体を起こし、雪季の身体をあらためて眺める。

 真っ白な肌は上気して赤くなり、信じられないような色香が溢れている。


「んっ……お兄ちゃん……私、いいですよ……?」

「…………」

「いえ、お兄ちゃんに……し、してほしい……です……」

 雪季は顔を真っ赤にして言うと、起き上がって――するりとワンピースを脱ぎ捨てた。


 白の上下の下着だけという格好になり、恥ずかしそうに自分の身体をぎゅっと抱きしめている。

 中三女子としては長身とはいえ、やはり女の子だ。

 同じく背の高い春太から見れば、充分に小柄で――可愛らしい。


 雪季はまたソファに寝転がり、春太を上目遣いで見つめてくる。

「お兄ちゃん、雪季ちゃんは……私は、ずっとお兄ちゃんが好きでした……今でも……今はもっとです……」

「ああ、俺も……きっと雪季のことが好きだった……今また、好きになった……」

「はい……」


 春太はソファに乗っかり、雪季の身体を優しく抱きしめ――

 ゆっくりと唇を近づけていった。

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