吐息ほど軽くはない

春夜如夢

第1話

こころを器と思う


喜び 怒り 哀しみ 楽しさ


それぞれの器があって 中に

とろりとしたやわらかい想いが入っている


だれかと言葉を交わしてこころが動くと

器の中のとろとろが揺れる


だれかのことを思うと とろとろがぶくぶく煮詰まってどろどろになったり


とろとろが器いっぱいにふくれあがって弾けたり


波立って揺れに揺れて器からとろとろの想いがあふれたりする


少しの揺れもなくただ想いが器の中にあるだけだとゆっくり固まっていってしまう


固く固く凝り固まった想いはおかしな向きに かたよって器を倒してしまう


こころの器は強くもあるし脆くもある


壊れたら 直るまでどんなに細かな欠片でも 残らず見つけてつなぎ合わせなくては



想いは増えて流れ出ることはあっても消えて無くなることはない


とろとろは水のように早くは流れない

それはこもった想いの分だけ重く


蒸発した水分に想いは混ざらない


吐息ほど軽くはない


『はぁ』


吐息と一緒に吐き出したはずの想いは

ちゃんと器に残っていて


せつなく 苦しく 重くなる






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吐息ほど軽くはない 春夜如夢 @haruno-yono

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