グリード・ディスクリプション
いすゞこみち
■発端
それは日本国内で『とある猟奇的な事件』として発覚した。
集合住宅の一室にて全裸の少女が遺体で発見された。歳は一六、七の可愛らしい少女で遺体は防腐剤でも使ったかの様に腐敗も無くまるで眠っているかの様に綺麗なままだった。
部屋の持ち主は大学生の男性。少女は簡易ベッドの上で寝かされていて猥褻な行為を繰り返していたらしい。少女の体内から男性の体液が大量に発見されて世間は騒ぎになった。
猟奇的な監禁と殺人――最初は誰もがそう考えた。発覚直後マスコミはこぞって報道を繰り返し、全国紙や地方紙関係なく警察の発表を連日繰り返して報道し続けた。
だが捜査の進展と共に別の問題が浮上する。
果たしてこの被害者少女は一体何処の誰なのか。一見中高生位に見えるとても可愛らしい顔立ちで日本人に見える。だがそれが何処の誰なのかが一向に判明しない。遺体は腐敗も無く判別出来るが行方不明や失踪リストにも存在せず家族の問い合わせすら無かった。
幾ら調べても身元が分からない。何処の誰なのか正体が全く分からない。それで警察は早々に情報開示を行い一般からこの少女に関する情報を募る事となった。
しかしそれもすぐに打ち切らざるを得ない状況へと陥ってしまう。
というのも――少女の遺体がこつ然と消えてしまったのだ。
検死解剖を経て数日が経過して丁度情報公開と募集を開始した直後。それはまるで最初から何も無かったと言う様に煙の様に消え失せてしまった。それも消えたのは少女の遺体だけでは無い。記録された写真や体液の収集データからも少女の影は一切失くなっている。
残っているのは調書や報告書、現場検証で得た間接的な記録情報だけで少女本人に関する物で唯一残っていたのは似顔絵だけと言う有様だった。
この事をマスコミは現代に於けるホラー、ミステリー、怪奇現象として大々的に取り扱った。無論警察の失態として管理責任が問われる事となったが何も落ち度が見当たらない。
逮捕された大学生に少女の事を問い質しても妄想じみた供述しか出て来ないし精神鑑定にも異常は見られない。被害者自体が居た証拠が何も存在していない。だが解剖記録からこの大学生が少女に猥褻な行為を行っていた事だけははっきりと記録に残っている。
結局被害者の存在が一切不明のまま大学生は精神疾患有りと判断されて八王子にある医療刑務所に収監された。そうする以外に警察も落とし所が見つけられなかったのである。
この事件についてネット上でもかなりの話題となった。個人サイト、匿名掲示板、ブログ、SNSで激しく議論が繰り返されて大きな波紋を呼んだ。警察は無能と叩かれ被害者の冥福を祈る言葉が数多く紡がれて容疑者に対する嫌悪と罵倒だけが溢れかえった。
だが、そんな中に紛れる様に奇妙な声があったのだ。
『――消えた少女は人ではない。あれは容疑者の書いた物語の登場人物だ』
書かれ方や主旨、文面はそれぞれ異なっていて明らかに別人が書いている。なのに文末に記載されたアドレスはどれも同じ。その先は物語の投稿サイト――アマチュアやプロが投稿して無料で閲覧出来るサービスへと辿り着く。
それを三流ゴシップ誌が取り上げた事で話はいびつな方向へと変化した。
発表された身元不明の少女は容疑者の供述から『ユミル』と仮称されている。そして同じ名を冠した少女の物語がそのサイトに投稿されていた。その物語が最後に更新されたのは事件発覚の半年以上前だ。この事からゴシップ誌では次の様に締め括られていた。
『――計画を立てて物語の形で公開し、自己顕示欲を満たそうとしたと推測される』
この話題はネット上で瞬く間に広がった。特に話題となった物語――そのコメントに書かれていた最後の一文が注目された。事件発覚の一ヶ月前に書かれたその一文とは。
『ゆみるがマジで現れた。やべえ、めちゃエロい。嘘じゃない、マジすげぇ可愛い』
この『ゆみる』とは物語のヒロインの名であり謎の被害者少女の名でもある。
そしてこの話を元にかなり早い段階からある噂が流れ始める様になった。
曰く、『あのサイトに物語を投稿すれば、それが現実になる』――と。
それはネットの中を駆け巡ってまことしやかに囁かれる都市伝説として終息を迎えた。
都市伝説にあやかろうとそれまで物語を書いた事のない者達が投稿を始める。そして数多くのサイトがその噂を利用して立ち上げられて行った。
――そうして事件から二ヶ月程が過ぎた頃。
一人の少女から再び、この物語は始まる。
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