(無自覚?)お人好しな吸血鬼さん
Mei
第1話 吸血鬼
吸血鬼は、これまでずっと誰にも見つかることなくひっそりと暮らしていた。魔物の血を吸い、肉を食らい、なんて事はない毎日を送っていた。
しかしある日……………
「人間の血ってうまいらしいぜ? それも、異性の血は、特に甘美なものらしい」
誰かがそう言った。しかし、人間は群れをなして生きている。吸血鬼も群れをなして暮らしてはいるが、協調性など皆無。ゆえに、『個』であった。最初はみな、人間を襲うなんてとんでもない、なんて渋っていた。だが…………
「人間の血を吸ったんだけどよ、おいしかったぜ!! 魔物の血なんて目じゃねえくらいになぁ!」
一人の吸血鬼が起こした騒動。それによって、最悪な事態が起こった。そう。人間が吸血鬼の集落を襲ってきたのだ。なんでも、血を吸った奴が吸血鬼になり、そいつが血を吸い回ったせいらしい。
吸血鬼に『個』としての戦闘能力はあっても、集団で戦うのは無理だった。ゆえに、吸血鬼が負けるのは必然。吸血鬼の集落は壊滅した。跡形もなく。
吸血鬼達は、人間を恨み、いつしかそれを晴らさんとすべく、鍛え出したり──────
◇◆◇◆◇
……………なんて事はなく。
「……………あー………美味しくない」
僕───ロロ───は、猪の魔物の血を吸い終え、そこら辺に捨てた。それにしても、相変わらず苦い。血が栄養を摂取する上では一番効率がいい。なので、こうして仕方なく血を吸ってる。食べ物でも栄養を摂取できるが、やはり最終的には血になる。
「ねえ、サザンカ。ちょっと血吸わせて」
「いいわよ。けど、あんたのも吸わせなさい」
同じく魔物の血を吸い終え、顔を上げてサザンカは言った。
目の前にいるサザンカは、茶髪で碧眼、背格好は僕と同じくらいだ。因みに、結構綺麗。僕の親友とも言うべき存在。かくいう僕は、黒髪に赤い瞳とまあ…………イケメンってわけじゃあない。
魔物の血を吸った後は、こうして二人でよく口直しに血を飲み合う。恋人っぽい…………とか思ってるかもしれないが、断じて違う。
「……………血を吸わせるのはあんただからよ、バカ……………」
ん? サザンカが何か言ったけど聞こえなかった。僕、またぶつぶつ何か言ってたのかなぁ。まあいいや。
僕がサザンカの首筋に牙を立て、血を吸う。
「んっ……………」
艶かしい声が聞こえる。それから少しして、サザンカも僕の血を吸う。口直し程度なので、少し吸って僕は首筋から離れた。だけど……………
「サザンカ…………いつまで吸ってんの?」
かれこれ十分くらい吸ってたんじゃないか?
「い、いいじゃない、別に!! あ、あんたの血が美味しすぎるのがいけないのよ!」
僕の血ってグルメ? 隠し味どころか主役張れる? やったね。
「さてと…………そろそろ家に帰ろうか。遅くなると、強い魔物とか出るらしいし」
「……………うん」
僕の差し出した手を、サザンカが掴む。サザンカの顔が心なしかにやけてる気がする。別に、気にしないけど。
ところでいい忘れてたけど、ここはギコウの森っていって、まあ、森だよ。察してくれ。そんなわけで、帰ろうか。─────と。
「きゃああああぁぁぁぁ─────!?」
悲鳴が聞こえた。声から判断するに、どうも女性っぽい。人間の冒険者じゃないかな?
「……………はぁ。また助けるの?」
「ん? 当たり前じゃないか。目の前で死なれたりしたら、寝覚めが悪いからね」
それが僕の
「…………そんなに律儀に助ける必要なんてないのに」
あんたぐらいよ、そんなやつ、と溜め息を吐く、サザンカ。
「よし、それじゃ、ぱぱっと助けて家に帰るとしよう」
僕は悲鳴が聞こえた方に駆け出す。サザンカも後ろから着いてくる。
ああ、そうそう。吸血鬼が太陽に弱い? そんなのはデマだからね。吸血鬼は、太陽には弱くありません。他の同族? 知らない。どっかで適当にやってると思うよ、うん。
(無自覚?)お人好しな吸血鬼さん Mei @reifolen
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