第37話 意外な突破口

「それでこそ。三人一組。よい連携だ」

「そいつはどうも。まだまだ行けるぜ」


 っと。

 ストームの動きは唐突というか、千鳥曰く我流の剣だったっけ。

 基本がまるでなっていない。

 手首の動きだけで右のソード・ブレーカーを繰り出しきた。

 が、途中で鋭角的に軌道を変えグンとスピードを増し、俺の首元へ吸い込まれていくような動きに変わる。

 体重の乗っていない片手持ちのソード・ブレーカーならば両手持ちの刀の敵ではない。

 さほど力を入れずとも、右のソード・ブレーカーを軽く打ち払っ……ぐ、ここで粘るのかよ。

 一歩前に踏み出したストームは体重を乗せ、そうはさせじと刀から右のソード・ブレーカーを離さない。

 片手が両手に劣るものかよ。

 ストームと俺の筋力に差は殆どないとこれまでの戦いで分かっている。

 ならば、単純に両手と片手の差が出て来るんだ。それを分からぬストームでは――。


「な……ディフレクト」

 

 なんとストームは右のソード・ブレーカーを軸にして宙返りしやがったのだ!

 回転する勢いを左のソード・ブレーカーに乗せ、俺の頭を切り裂かんとする。

 これに対し、ディフレクトで対応し……。


「パリイ」


 そこで、パリィか!

 左のソード・ブレーカーはディフレクトの高速移動で防御した。

 しかし、パリィで伸びきった右腕を戻したストームが右のソード・ブレーカーを振るってくる。

 彼の体はちょうど天に向かって逆さまになったところ。

 

「まだ間に合う。いや、ここは、斬月! そして、エイミング」


 ディフレクトで止めた左のソード・ブレーカーを振り払う。

 それと共に三日月型の衝撃波が発出。

 肉を切らして骨を断ってやる!

 

「やるな。だが、パリィ」


 斬月を右のソード・ブレーカーで防ぐストーム。

 彼がスタッと俺の真後ろに着地する。

 後ろを取らせまいと急ぎ振り向いたら、ストームが駆け始めていた。

 

 なるほど。ベルベットが小屋から出て来たのか。

 

「隠遁」

 

 ストームの言葉と共に彼の姿が見えなくなった。

 千鳥は隠遁を使うと言っていたな。きっと彼女からトレースしたんだ。

 ストームに対し姿隠しは通用しないが、俺たちには効果覿面である。

 しかし、俺にもこいつがあるんだぜ。

 

ステルス影は影の中に


 よっし、彼の姿が見えた。

 初速はストームの方が速いが、最高速ならば俺だ。

 この距離ならば、ベルベットの元へ行く前に追いつける。

 しかし、このまま走らせるなんてことはしないぞ。

 

「エイミング!」


 走りながらナイフを投擲する。

 攻撃動作を行ったからか、再びストームの動きが見えなくなってしまった。

 ステルスって、こんな制約があったのかよ! だが、エイミング発動時に彼の姿は見えていた。

 だから問題ない、はず。

 キイインとナイフを弾く音がして、ストームが姿を現す。

 隠遁も似たようなものか。

 流水を使うのかと思ったが、ん、あの動きは。ここで?

 

超筋力力こそパワー


 足を振り上げたストームは、思いっきり地面を蹴った。

 ドオオオオン!

 物凄い音がして、大量の土砂が舞い上がる。

 ストームの姿が再び見えなくなるだけじゃなく、このままじゃ進むこともままならない。

 

超敏捷速さこそ正義


 何とかして追いつくしかねえ!

 超敏捷の世界に突入すると、土砂の動きさえも止まる。

 視界良好。

 な、あいつもうあんなところまで。

 ストームは土砂で俺の視界を塞ぎ、障害物とするためだけに超筋力を使ったわけじゃなかった。

 超筋力で得た脚力でベルベットの元まで一息に飛んだ!

 宙に浮くストームに対し、背筋が寒くなる。

 

 ま、間に合わない。

 超敏捷の効果が切れた。

 ストームとの距離はあと2メートル。ベルベットまでは3メートルか。

 

「ベルベット!」

「急に出てきたわよおおお。どうするのよおお。さっき、姿も消えてたわ。何で何で。私の熱感知でも分からなかったわよ」

「千鳥の隠遁だ」

「何て言っている場合じゃないわああ。助けてええ。ウィレムぅううう」


 超敏捷をもう一回使うか、それとも斬月で足止めを。

 ダメだ、超敏捷のモーションを行っている間にベルベットが斬られてしまう。

 

「悪いな。何ら恨みはない。いや、むしろ、君たちに感謝をしているというのに」


 ストームが両のソード・ブレーカーを引き抜き、ベルベットに向ける。


「もういいわああ。首飛ぶ前に言ってやるんだから。ストームくん」

 

 ストームが右のソード・ブレーカーを振り上げた。ベルベットとの距離はもうない。

 こんな時だってのに、ベルベットはビシイとストームを指さし、胸を反らす。

 

「千鳥ちゃんは男の子じゃなくて、女の子だったのよ。知ってた? やーい、やーい。言ってやった」

「な……んだと。た、確かに言われてみれば……い、いや」


 あろうことかソード・ブレーカーを振り上げたままストームの動きが止まる。

 彼の意思に反して動くと言っていたが、動揺で体の動きを止めることができたのか? 

 今は何で「止まれた」のかなんてことを考察する必要はない。

 この隙を活かす!

 

超敏捷速さこそ正義!」


 再度の超敏捷。

 これでストームを攻撃すれば彼を倒せるかもしれない。だが、倒せない可能性の方が高いだろう。

 だから、こうする!

 ベルベットを抱えあげ、ストームからくるりと背を向けた。

 

 効果が切れるタイミングを計り、再び超敏捷を使うか考えどころだ。

 あと一回、超敏捷を使えば線の外に出ることができる。超敏捷をかけなおす合間にストームが何処まで来るかが勝負だな。

 ダメだ。相手はストーム。普通の考えじゃ、ひっくり返される。

 ならば、これか。

 ベルベットを投げ捨て、両手をクロスさせる。

 

超筋力力こそパワー


 再びベルベットを掴み、赤い線の向こうへ向け放り投げた。

 その後を俺が追いかける。

 三、二、一……世界が動き出す。

 

「まさか、自分の動きを止めることができるなんてな」


 ソード・ブレーカーを鞘に納めたストームが腕を組み、そんなことを一人呟く。

 あれ、攻撃してこないのか?

 不思議に思いつつも、俺も赤い線の外に出ねばと速度を落とさず……ついには赤い線を超えた。

 

「コズミックフォージが赤い線の外に出た時点で、自由が戻ったんだ」

「そうだったのか」


 ストームが理由を説明してくれた。

 放り投げたベルベットが既に赤い線を越えていたんだな。

 ベルベット? 彼女はほら、地面と熱い抱擁をかわしているよ。一応、心配したらしいハールーンが彼女を起こしてくれている。


「ちょとおお」

「お、元気そうでなにより。ナイスだったぞ。ベルベット」

「え、うん。さすが私でしょー」

「おうおう。頑張った。えらいぞお」


 なーでなでと頭を撫でてやると、満足そうにベルベットの口元が緩む。

 既に彼女の頭の中には放り投げられた記憶が無いことだろう。

 余談ではあるが、彼女、何で褒められたのか分かっていない。

 

「ストームさん、コズミックフォージは必ず破壊する。結果報告には来れないかもしれないけど」

「あてがあるのか?」

「これなら破壊できるってのがあるんだ。試しに行ってくる」

「ウィレム」


 俺から顔を反らしたストームは、ぼそっと「ありがとう」と感謝の言葉を述べたのだった。

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