第13話 ハールーン復活
眠っていたのは男なのか女なのか判別がつかない人物だった。
浅黒い肌をしていることと、耳が長いことから人じゃなくてエルフかそれに類する種族だということだけは分かる。
だけど、皺だらけを通り越して干からびた状態になっていた。
服を着ていなかったので、慌ててローブを被せたというわけなのだが……。
「ハールーン?」
『これは僕の身体だよ。この体に僕が引っ張られるのが分かる』
「おお。しかし、このまま入って大丈夫か……」
『入ってみないと分からないね。でも僕がベルベットとかいう軽薄な女の言う通りの者なのだとしたら、何とかなると思うよ』
「まずそうなら、『出ろ』よ」
『心配性だね。君は。全てを知る知恵があるのなら、抜け出すことも造作がないだろう?』
「ま、まあそうだな。よ、よっし」
『君が深呼吸をしてどうするんだ。やるのは僕。君は見る』
そうは言ってもだな。
ハールーンがどうにかなってしまってはと気が気じゃない。
ハラハラしている俺の気持ちなど露知らぬ火の玉はゆっくりと棺に眠る肉体に近寄って行き、肉体に吸い込まれるようにして姿を消す。
「う……エ……ネル……ギー……」
「どうした? ハールーン。無事か?」
「ウィ……レム……」
掠れた声でうわごとのように言葉を紡ぐハールーンに激しく動揺してしまう。
え、ええと。そうか。
「干からびているものな。そうだ。これ喰うか」
「手……に」
おいしくないが腹は膨れる果実をハールーンに握らせる。
すると、果実が干からびボロボロになって崩れ落ちた。
果実はまだまだある。
もう一個握らせようとしたら、ハールーンが首を振る。
「それは君にとって貴重な食材だ。どうにか喋ることができるくらいまでにはなったよ」
「いろいろ思い出したか?」
「ううん。今は最低限の力だけに留めているんだ。君の知るハールーンと対して変わらない」
「そうか。立てるか?」
「歩くくらいなら。だけど、僕はお荷物になる。以前の姿と違って刺されれば傷になるからね」
「それなら、食べられるだけ食べろよ。この果実を」
「有難い申し出だけど、持っておくことを勧める」
「懸念しているのか。ハールーンが元に戻ったから、あの大樹がどうにかなってしまうって?」
「そうかもしれないけど、そうじゃないかもしれない。だけど、今持っているものだけは確かなものだろう? 僕はまだ何も知識を得ていない。だから、何とも言えないね」
こいつ。
絶対に果実を食べないつもりだな。
なら、仕方ない。
ハールーンを抱え、立ち上がる。
「足手まといになるだけだと言っただろう?」
「果実が嫌なら別のものを食べさせてやる。森に行くぞ」
「全く……それならそれで僕をここにおいて、獲物を持って来ればいいだろうに」
「それじゃあダメだ。ここはアンデッドが蠢いているからな。いつ何時襲ってくるか分からん」
ハールーンの抗議を無視して、歩き始めた。
すると、じっと俺たちの様子を見守っていたベルベットが口を挟んでくる。
「私も行く!」
「お前が来ては寝首をかかれかねん」
「そんなことないってばああ。協力したじゃない」
「棺の件は感謝する。だが、連れて行くとなると話は別だ」
「ハールーンを抱っこしたままじゃ戦えないでしょ」
「お前に預けるとそれはそれで心配だよ」
ベルベットがむううと涙目になって俺を見上げてきた。
そんな顔で騙されるような俺じゃないぜ。
彼女はハールーンを支えている俺の右手を掴む。
「おい、ハールーンが落ちるだろ」
「僕は立てるから大丈夫だよ」
抗議するとハールーンが自分から床に足をつけた。
抱き上げた時にも思ったが、立つと明確に分かる。彼はかなり小柄だ。
俺の腰くらいまでしかない。エルフかと思ったけど、森妖精とかその辺かもしれない。
しかし、干からびた体でよろよろと立つ彼の様子は見ていられないぞ……。
こら、ベルベット、俺の腕を離せ。
右腕を振るが、彼女はもう一方の手も伸ばし両手で俺の右腕を握りしめる。
彼女が腕を引き、自分の胸に俺の手を当てた。
「どういうつもりだ」
「ここが、私のコアよ。ここを破壊すると私は永遠に戻らない」
「復活するんだろ?」
「それは死者の大聖堂の中だけ。他のエリアでここを潰されると私は完全に滅びるわ」
「首じゃなかったのか」
「そうよ。首を斬られるとしばらく動けなくなるけど、そのうち回復する」
「俺に弱点を教えてどうするんだ」
「これは私にできる覚悟と誠意よ。もし私がハールーンを傷付けたり、放り出したりするのなら、ここを貫いていいわ」
「……分かった。負けたよ。戦闘の時は任せる」
俺とベルベットの間に信頼の証を示すようなものなんて何もない。
単に俺とベルベットが互いに信用するかだけ。
彼女が何かを示そうとした。その想いに俺も応じたい。そう思ったから、彼女の申し出を受けることにした。
偉そうに、と思われるかもしれない。
だけど、一歩先は即死かもしれない道のりなのだ。
独りよがりであっても、上から目線であっても、生き残ることを優先しないと……。
一緒に冒険するとなれば、彼女にも命を預ける。
裏切られたとしても恨みはしない。俺が彼女と行くと決めた。だから、この先どのようなことが起こっても後悔なんてしない。
◇◇◇
森への入り口まで順調に来たところで、スケルタルドレイクが復活していた。
「もはや、大聖堂での戦闘をこなした俺の敵じゃあない。少しだけ待っててくれよ。ハールーン」
「うん」
「私には? 私にはないの?」
「しっかり、ハールーンを支えてやってくれ」
「扱いが悪いわ……」
口を尖らせるベルベットから背を向け、スケルタルドレイクを睨みつける。
間合いは以前と同じなんだな。
近寄ると尻尾の一撃を繰り出してきた。
こいつの攻略方法はもうわかっている。斬月とエイミングでいくか。
いや、ここは。
「
時が止まる。
完全に動きを止めた世界で俺だけがスケルタルドレイクの体を伝い奴の頭まで登り切る。
そこで超敏捷の効果が切れた。
だが、俺の攻撃はここからだぜ。
「
いっけえええええ!
片刃の剣を振り下ろす。
風圧が生まれ、剣圧だけでスケルタルドレイクの頭を割る。
上から下に落ちながら、剣を奔らせるとスケルタルドレイクが真っ二つになりそのまま崩れ落ちた。
ドオオオン。
轟音と共に地面に着地し、ふうと息を吐く。
「待たせたな。ハールーン」
「頭痛は問題ないかい?」
「ちょっとばかしくらくらするかな。
「うん。ごゆっくりどうぞ」
スケルタルドレイクのいる場所は他のアンデッドがいないことは前回で証明済み。
ハールーンの体が心配ではあるけど、この先どんな敵が待ち受けているか分からないからな。
あぐらをかき両目を瞑る。
待っていろ。魔獣の森。
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