魔法狂騒譚

冠つらら

プロローグ

 アウフターアース。普段我々が暮らしている地球とはまた違った世界。我々が命を受け、文化を育て、時代を営んできた、ここ地球は、いわば表の世界。

 アウフターアースは、表の世界とは異なる歴史を歩んできた。表の世界と比較してしまうと、規模も小さく、国家というものはない。その中でも分けられた各地域間の争いは滅多に起きない。

 そして何より大きく違うのが、アウフターアースでは魔法といった統一記号を持っている。皆が魔法を使え、ある意味で平等に権利を持っている。この、魔法の存在が、こちらの世界を治めているといっても過言ではない。


 人々は、持つ者と持たざる者がいると、どうしても争いごとが絶えない。

 しかしここでは、そんなことはないのだ。優劣はあれど、それをあざ笑うようなものはいない。

 見方を変えると、非常にドライな世界とも言える。だがそれはそれで、居心地の悪いものでもない。


 アウフターアースの存在は、表の世界には気づかれていない。しかしながらアウフターアースの人間は、表の世界、特にその文化に憧れを抱いている。

 魔法などなくとも、自然と、いや、あるいは意図的に築き上げられてきた数々の文化に、アウフターアースにはない重厚な背景を感じ取っていた。

 魔法が使えないからと言って見下すことは一切なかった。むしろ、魔法もない世界で生きる彼らのことを慈しみ、宝物のように思っていた。

 国や権力の争いのないアウフターアースは、まるでユートピアのようにも見えるだろう。しかも魔法が使えて、不自由することはあまりない。


 ただ、物事には良い面もあれば悪い面が必ずある。

 ここ、アウフターアースでもそれは例外ではない。理想郷など、そうそうあるものではないのだ。

 アウフターアースでは、確かに権力争いは起きない。しかし、それ以外ではどうだろう。一口に魔法といっても、その種類は様々である。


 特に、由緒を誇り、自然や精霊に敬意を払う古代魔法と、刺激的で突飛にとんだ近代の科学的魔法の間には、言い知れぬ確執がある。

 どちらも立派な魔法で、優劣もあまりない。例えば、古代魔法は多様な鳥類の羽を用いた杖翼を主流とし、近代魔法は鉱石を埋め込んだ腕輪を主に使うといったような違いはあるが、だからといってどちらが良い悪いではない。

 人によって得手不得手はもちろんあるが、どちらかの魔法が禁止されているわけでもないし、これといった決まりはない。

 自然と進化し、そのバリエーションが増え続けていく魔法に、人々の思考が追いついて行かないこともあるだろう。

 互いに認め合い、補い合えばよいところを、傲慢な人々はそれをしない。

 その結果、アウフターアースは長らくの間、この魔法の派閥による抗争が勃発している。

 魔法統一論が唱えられた影響もある。

 中立派のものも多くいるが、たいていは声の大きい者の言葉が耳に入ってくるだけだ。

 知らず知らずの間に脳裏にその抗争が刷り込まれ、気づかぬうちに、白か黒かを決めたがってしまう。

 いやはや、どの世界でも人の脆さは同じものである。

 意思や知恵を持つからこそ、その心は容易く支配されるものだ。

 強い力で押せば、どんなことだって、いとも簡単に思いのままに操れる。そちらに立つ者は、さぞかし楽しいことだろう。


 アウフターアースは今、ユートピアとは程遠い。

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