第25話

25 野菜の神様

 そしてついに、『カボチャ祭り』の日がやって来た。


 カボチャ農園が荒られてカボチャが全滅したのは周知の事実であったので、今年は中止もやむなしという雰囲気であった。

 しかしゴッドファーマーの管理する農園に、奇跡的に生き残ったカボチャがあったということで、開催されることとなる。


 生き残ったというカボチャは言うまでもなく、オールドホームの里から奪ってきたものである。

 しかし民衆は知る由もない。


 カボチャは厄災を生き延びたとして、さながら万博の『月の石』のような扱いで飾られる。

 ショーウインドウのカボチャをひと目みようと、王都の祭り会場には多くの人々が詰めかけていた。


「見ろよ、あれがゴロツキどもの襲われても、傷ひとつつかなかったカボチャだぜ!」


「すげぇ! 本当に傷ひとつ付いてねぇ!」


「表面がツヤツヤに輝いていて、とってもキレイだわ!」


「本当、まるで宝石みたいね!」


「こんなに美しくて頑丈なカボチャを育てられるゴッドファーマー様は、本当にすごいスキルをお持ちなんだなぁ!」


「ああ! カボチャを見ているだけで長生きできそうだ! ありがたや、ありがたや~!」


 とうとうカボチャを拝みだす者まで出る始末。


 ちなみにではあるが、カボチャ祭りに出展されているのはカボチャだけではない。

 その年の野菜が楽しめるような展示やアトラクションがいくつもあるのだが、人々は奇跡のカボチャの虜になっていた。


 そしてついに、祭りのメインイベントである『巨大カボチャコンテスト』がやって来る。

 今回は出品者はゴッドファーマーのみなので、もうコンテストの体はなしていない。


 ただゴッドファーマーのカボチャの計測結果を見て、みなで偉業を讃えるイベントになっていた。

 ゴッドファーマーは、災い転じて福となしたと大喜び。


「だっはっはっはっはっ! カボチャが全滅したときはどうなることかと思っただが……。

 かえってそのほうが、オラのカボチャがより注目されるようになっただ!

 もう民衆は、オラのことを崇めるほどになっているだ!

 オラのことを田舎者だと思ってた貴族ですら、手のひらを返したみてぇにおべんちゃらを言うようになっただ!

 このコンテストでさらにオラの偉業を見せつければ、オラは『野菜の王様』から『野菜の神様』になれるに違いないだ!

 そうしたら、帝王の座も夢ではないだ!

 だっはっはっはっはっ! だーっはっはっはっはっはーーーーっ!!」


 コンテストは大臣である、ノット・リーの司会進行によって行なわれる。

 ノット・リーは魔導装置の一種である、声を拡大する『拡声棒』を手にステージに立っていた。


『それでは今年もやってまいりました、「巨大カボチャコンテスト」!

 今回は不幸な事故により、出品者がゴッドファーマー様だけとなってしまいした!

 でもゴッドファーマー様の今年のカボチャは、例年にない最高の出来となっています!

 それをみんなで拝めるだけでも、開催の価値は大いにあるといえるでしょう!

 それではさっそく、計測とまいりましょう!』


 舞台袖から、ガラスケースに入ったカバのようなカボチャと、最新型の計測器が運び込まれてきた。

 それだけで、ギッシリと詰まった客席からは歓声がおこる。


 最後に、カボチャの神様のようなコスプレをしたゴッドファーマーが現れたとたん、さらなる大歓声が迸った。


「ゴッドファーマー様! ゴッドファーマー様! ゴッドファーマー様! ゴッドファーマー様!」


 誰もが拳を振り上げ熱狂、我らが神の名をコールしている。

 ゴッドファーマーはまるで天から降りてきたばかりのように、両手を広げて呼び声に応えた。


『これから、オラのカボチャの凄さを見せてやるだ!

 大きさは昨年よりもちっちぇえが、もう、大きさで競いあう時代は終わっただ!

 これからのカボチャは、丈夫さだ!

 丈夫なカボチャというのは災害にも強くなるだ!

 オラは何歩も先を見据えて、丈夫なカボチャを作りを研究していただ!

 その成果が、ついに実っただ!

 追放者のシュタイマンでも壊せなかったカボチャを、このオラは作っただ!

 そう、このカボチャの強さは帝国そのもの……!

 なにがあっても揺らぐことない帝国の強さを、オラはカボチャに込めることに、成功しただぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ!!』


「うおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 地を揺らすほどの大絶叫。

 客席は狂乱のるつぼに包まれていた。


「そうだ! カボチャが大きいからって何だってんだ!」


「野菜は丈夫なのがいちばんよね!」


「災害にも負けない野菜なんて、まさにこの帝国のようじゃないか!」


「なんと素晴らしい! ゴッドファーマー様こそが、この国の帝王にふさわしい!」


「他の聖偉様など、比べものにならぬ!」


「みんなでゴッドファーマー様の偉業を讃えようではないか!

 そしてみんなで、ゴッドファーマー様を帝王の座に押し上げようではないか!」


 ゴッドファーマーの宣言は、民衆の心をひとつにする。

 このままでは彼が帝王になるのは、もはや時間の問題かと思われた。


 しかし、誰も気付いていない。

 いや、この会場のなかで、ひとりを除いて誰も気付いてはいなかった。


 このステージは、神を称える祭壇などではなく……。

 思い上がった田舎者を処刑し、チーンと鐘を鳴らす仏壇であることを……!


『それでは、いよいよ計測とまいりましょうっ!』


 ノット・リーのかけ声とともに、ガラスケースのまわりにいた警備兵たちがカボチャを取り出す。

 巨大なダイヤを抱えるように、十数人がかりで慎重に計測器へと運んだ。


 ステージのバックにはスクリーンのように大きな水晶板があり、そこに計測結果が映し出されようになっている。

 カボチャが計測器の板に置かれたとたん、スロットのように回転する数字が映し出され、ドラムロールが起こった。


 静まり返った会場に、ダラララララララ……! と高鳴る鼓動のような音だけが鳴り響く。


 ……ジャーン!


 締めシンバルとともに、スロットが止まる。

 そこには、『重さ:1.2トン』とあった。


「う……うおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!」


 歓声とともに、次々と輝かしい数値が表示されていく。


 『全長:3メートル』


 『糖度:30度』


 『栄養:食べれば医者いらず』


 『価値:1億5千万エンダー


 そのあまりにもチートなステータスに、観客たちは失神寸前。


「す……すげえすげえすげえ、すげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーっ!?!?」


「糖度が30度だってぇ!? 巨大カボチャは糖度がぜんぜんないのが普通なのに!?」


「最高品質のカボチャだって25度がせいぜいだぞ!? それを軽く上回ってる!?」


「しかも栄養バランスも最高よ! 食べれば医者いらずですって!」


「価値が1億5千万!? 豪邸が建っちまうぞ!?」


「これだけ素晴らしいカボチャなら当然よ!」


「ああ、神様っ! こんな素晴らしいカボチャをお作りになられた方は、ぜったいに神様に違いない……!」


 ステージの最前列から、マスゲームのように次々と膝を折る観客たち。

 世界がカボチャにひれ伏した瞬間であった。


 高らかなファンファーレとともに、花火が打ち上げられる。

 水晶板には星空が浮かび上がり、最後のステータスが現れようとしていた。


 もはやゴッドファーマーだけはそれを見ていない。

 もはや自分は『神』になったのだと、すっかり己の立場に酔いしれていた。


 そしてついに、本物の『神』が降臨する。


 『生産者』というキラキラのタイトルとともに、水晶板にデデーンと現れたのは……。


 三つ編みに赤ら顔の、まだあどけない少女のドアップであった……!

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