第23話

23 まっとうな商売

 俺は平和的手段を用いて、『ワイルドテイル』のボスを交渉のテーブルにつかせることができた。


 種明かしをすると、途中からの爆発はぜんぶ『発火ファイヤリング』魔法を使ったもの。

 タントラシードの爆発にあわせて、無詠唱での魔法発動をしていたんだ。


 ちなみに最初に撃ったスペシャル弾も同じ原理だな。


 のらねこ団たちは、いったいどんな魔法を使ったのかと、にゃあにゃあ騒いでいた。

 でもその通り、魔法を使っていたというわけだ。


 しかし大人たちは、無詠唱では魔法を使えないことを知っていたので、レーザー兵器を見た原始人のような顔をするばかり。

 権謀術数に長けた大人たちよりも、読み書きすらできない子供のほうが核心を突いているだなんて、なんとも皮肉なもんだな。


 なんにしても俺が優位なのは間違いないので、『ワイルドテイル』の大人たちに、こう提案●●した。



「これからお前たちは全員、『のらねこ団』の傘下に入れ、いいな」



 ……これが俺の考えていた、足抜けのプラン。

 どーせちょっとやそっと痛めつけてやったところで、ワルどもが懲りるのは一時的なことでしかない。


 熱さを忘れた頃にまたチョッカイをかけてくるだろうし、たとえ『のらねこ団』を手放したとしても、今度は別の身寄りのない子供たちを悪の道に誘い込むだろう。


 だから組織ごと、そしてナワバリごと頂けば、なにもかもが万事解決できると踏んだんだ。


 これには大人たちも子供たちも、まるでひとつの家族になったかのようにキョトーンとしている。

 俺はまず、この提案を推し進めることにした。



「リーダーは今までどおり、このヒナゲシだ。オヤジはこのヒナゲシをサポートしてやってくれ」



 「ええっ!?」と大人たちは驚きと嫌悪が混ざった声をあげたが、



「これは、お前ら『ワイルドテイル』に対する、俺からの執行猶予の提案●●でもある。子供たちが大人になるまで、悪の手から守ってやってくれ」



 俺は大人たちの反応を無視したまま、さらに続ける。



「ようはヒナゲシたちのターミネーターになれってことだ。やりたくなければ今ここで、溶鉱炉に叩き込んでやってもいいんだぞ?」



 タントラシードを掌で転がしていたら、誰もが貝のように口を閉じ、何も言わなくなった。


 だが、子供たちはというと……。

 皆ありありとした不安を浮かべていた。



「お、おいらが……リーダーっ!?」



 特にヒナゲシは、ライオンを養子に押しつけられた猫みたいに戸惑っている。



「そうだよ。のらねこ団のリーダーはずっとお前だったんだろう? 150人ほど手下が増えただけだ」



「で、でも……! おいらよりもずっとクソ歳上の、大人たちなんだよ!?」



「その気になれば、歳の差なんて関係ない。子供の頃は先輩後輩の年功序列だが、大人になったら歳下の上司なんて珍しくないんだからな」



 そう言われても、ヒナゲシはピンと来ていないようだった。



「ずっと歳下の俺を、兄貴と呼べるお前なら、ここにいる大人たちからリーダー呼ばわりされたっていいだろう。それにオヤジがサポートしてくれるから大丈夫だ、なっオヤジ?」



 俺が話題を振ると、いいねオヤジは背筋をピンと正し、裏声を振り絞る。



「はっ……はひぃ! い、いいですねぇ! り……リーダーのヒナゲシ……さんを、このワシが全力でサポートさせていただきますです! はいぃ!」



 そこまでお膳立てして、ようやくヒナゲシは首を縦に振った。


 しかしこれで終わりじゃない。

 俺はここからさらに、3つの提案を出した。



 ・『ワイルドテイル』が所有する財産、物件などはすべて、『のらねこ団』に移すこと


 ・この屋敷に、子供たちを住まわせること


 ・『のらねこ団』はまっとうに生きることを決めたから、全員で新しい仕事を探すこと



 大人たちはどの案にも不満たらたらだったが、特に最後の3案目には、特に難色を示した。



「そ……そんな!? そんなことをしたら、おまんまの食い上げだ!」



「そうだそうだ! この島でまっとうな仕事をしろだなんて、無茶だ!」



「たとえあったとしても、200人が暮らせるほどの稼ぎなんて、得られるわけがないだろう!」



 これにはオヤジも真面目な顔して、俺を諭してきた。



「よくないねぇ。いくらキミの命令でも、それだけは聞けないねぇ。セージ君、キミの言っていることは至極正しい。いいねぇ、と言ってあげよう。でもそれでは、ワシらは生きていけないんだよ。この島には仕事なんてない。キミはこの島に来たばかりだからわからないだろうが、ワシはこの島で育ったから、よおくわかるんだ。3つめの案だけは、大人として飲めない……いや、飲みたくても飲めないんだ」



「オヤジ、そうやって人生の先輩ヅラしてあきらめさせようったって無駄だぞ。なんたって俺は2周目なんだからな」



「えっ、2周目?」



「それはどうでもいい。お前らはこの島で生まれ育ったのか。それなら仕事なんていくらでも見つけられるだろう。それに、見つけられなかったら考えればいいだけのことだ。この世界……あ、いや、飛行船発着場に着いたばかりの頃の俺ですら、仕事を思いついたくらいだからな」



 するとオヤジはプライドを傷付けられたのか、言葉を詰まらせた。



「うぐっ……! い……いいねぇ! ならそこまで言うなら、それをワシらに教えてほしいもんだねぇ!」



「そ、そうだ! セージの兄貴! 教えてくれよ!」



「そうだそうだ! もしその仕事がうまくいったら、俺たちはすっぱり足を洗うからさ!」



 俺は烏合の衆にわいわい言われて、新事業の立ち上げを手伝わざるを得なくなってしまった。


 でも、まーいっか。

 これで大人たちがワルの道から足を洗えれば、島の南側が平和になって、紹介状を盗まれることもなくなるんだからな。


 なにはともあれ、『のらねこ団』は200名もの大所帯として生まれ変わる。

 子供たちは住む家を手に入れたし、食うために盗みを働く必要もなくなった。


 屋敷では新生のらねこ団の結成パーティが行われたが、俺はのんびりもしていられない。

 パーティを途中で抜け出し、新事業の準備のために自宅に戻った。



 ◆  ◇  ◆  ◇  ◆



 次の日。

 俺はいくつかの道具を手に、のらねこ団のナワバリ内にある、飛行船発着場にいた。


 ここは、俺が初めて降り立った時もそうだったが、今日も大勢の人たちで賑わっている。

 朝からひっきりなしに飛行船が着き、身なりの良さそうな人を次々と島に吐き出しては、また飛び立っていく。


 俺は噴水の近くに陣取り、高低ふたつの椅子をセッティングした。

 風呂場にある椅子みたいな、低いほうに俺が座る。


 その対面に設置した、バーとかにありそうな背の高い椅子には誰もいない。

 それはこれから客となる人物に座ってもらう場所だ。



「なぁ、兄貴、こんなクソ人だらけの所に、椅子をクソ置いて、いったいなにをクソっぱじめるつもりだい?」



「これがセージ君のいう、『新しい商売』なのかね? よくないねぇ」



 一緒に連れてきたヒナゲシとオヤジは、いったい何をするつもりなのかと、いぶかしげだ。



「まあ見てろって」



 俺は椅子から立ち上がると、手を叩きながらまわりに呼びかけた。

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