第2話【短編小説】(◍•㉦•◍)名犬ラッキー🍀


 僕が贈られたのは関東の大きな病院。

 ベッドで横になっていたのは大学四年のカオルという女の子。


 就職前の健康診断で見つかったのはステージ3の肝臓がんだった。


 僕を送ったのはカオルの叔母さんの百合子さん。


 犬が好きなカオルだけど団地に暮らす家族には飼えないペット。

 元気になって欲しいとの思いを込めて僕は贈られたらしい。


 それから15年の月日が経ち、今度僕を抱きしめてくれるのは、百合子さんだった。


 たくさん泣いたけど、元気になったカオルさんは、二人の子どものママになった

 今度は百合子さんが入る病院へと僕を送った

 大切にされていた僕の毛はふわふわで、ちょっとだけくすんでたけど、カオルさんは子どもたちと僕をお風呂に入れてピカピカにしてくれたんだ。


 ガンを治してくれた名犬ラッキー🍀それが僕の名前、きっと今度も奇跡を起こしてくれるって。


 新しい赤いリボンを付けて、僕は関西に住む叔母の百合子さんの元へ


 病院では、辛い抗がん剤や放射線治療でたくさんの人が苦しんでいる。

 何度も入退院を繰り返してる人、強いクスリで痛みを抑えている人。



 僕にはたくさんの声が聞こえる


 ──私には夢があるから

 まだ死ねない


 ──好きな人にまだ告白もしていないから死ねない


 ──可愛い子どもを残して死ねない


 ──優しいけど不器用な夫を一人には出来ない


 ──やりたいことはたくさんある


 ──行きたい場所もたくさんある


 ──世界中を旅したい、この目で世界遺産だって見たことない


 ──あの映画の続編が観たいから死ねない


 ──物語の続きを描きたいから──


 百合子さんの枕の横から病室を見回すと、たくさんの声が聞こえる気がする。


 たまには弱気な声も聞こえてくる

”こんなに辛いなら、いつでも天国へ行きたい”

”治療費だってかかるし、これ以上家族に迷惑かけたくない”

”なんで、私だけがこんな目にあうの?”


 そんな声が聞こえてくると僕はたまらなく悲しくなる。


 そしたらね、僕は青空とか綺麗な月を眺めることにしてる。


 病室から外を眺めるとお月さまはにっこりと笑ってる。

 口を大きく広げてワハハって声が聞こえてきそうなくらいに。


「きっと笑える日がくるんだよ」



 僕は叶えてあげたいと思うんだ。


 だって名犬ラッキーなんだからね。


 病気だけではなく、色んなことで悩んでる人、苦しんでいる人、その全ての人のところに飛んで行きたいなんて大きな望みも持ってる、ねえ素敵でしょう?


 まずは百合子さんのそばで優しく見守ることにするね。


【おしまい】(本文999文字)

 

※60代のお友達安田さん(仮名)の枕元に、真っ白な可愛いワンコのぬいぐるみがあります。

 親戚に15年前に贈ったものですが、今回改めて送り返してくれたそうです。

 ガンを克服して元気に暮らしている姪からのものだそうです。

 大切にされていたらしく、綺麗で可愛いワンコです。

 そして名前は「ラッキー」です。

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