【ガラクタおもちゃ箱】令和3年3月3日3時33分ゾロ目イベント参加作品

あいる

第1話【短編小説】桜の花が咲く頃に~浪花女子と恋をするために大切なことそれは……

 関東の大学に通い始めた私は、てっきり標準語になると思ってた、たまたま仲良くなったのが同じ大阪生まれの女の子で、相変わらずの大阪弁。

 ほんでな、ちゃうねん、アホちゃうか、そんな言葉が抜けきれないままに社会人になった。


 コテコテの粉もんで育った私に標準語しか話せない彼氏が出来てから一年、お互い寄り添ってきたはずだったのに、ここ一ヶ月まったく会えなかった。


 元々、LINEの既読すら遅いけど必ず返信してくれたのに、昨日から何の音沙汰もない。


「もう、何してんねん」


 スマホの画面に向かって悪態をつく。


 そういえば、最後に会ったあの日小さな諍いがあったよな──


「関西人ってさ、お好み焼きをおかずにご飯食べるんだって?」


「そんなんちゃうで、私は食べへんで、関西人やからってみんなそんなわけないやろ」


 拗ねた私の頭をぽんぽんと触れる。


 そしてニコニコと笑い、テーブルの上の食器を片付けながら言った。


「関西人は色々なんだね」


 あれから、忙しいというハル君とはまったく会えてない。


 毎朝のモーニングコールと、真夜中のおやすみLINEで繋がっているだけ。


 去年の新入社員に同じ大学の後輩女子が入ってきて、教育係になったって言ってたし、忙しくなったって愚痴ってたけど──


 急に不安になってきた。


 世界中の明かりのブレーカーを落としたように、いきなりストンと夜になる。


 スマホをいつものように枕元に置いて眠る、午前一時にLINEメッセージが届いた、ハル君からだった。


「ごめん、寝てた?」


 寝ぼけ眼で返信する。


「お疲れ様、今帰ってきたん」




 すぐに既読が入ったけど、返事もないままだった。


 きっと疲れて寝てしまったのだろう、そう思いながらもこの週末こそ会えると思っていたのにと悲しくなる。


 モーニングコールをしなくて済む土曜日の朝、ようやくハル君からの返信が届く。


「サチ、ちょっと話があるから今日会える?」


「うん、わかった」

 スマホの画面に文字を打つ手が震えそうになる。

 話があるって何の話なんだろう。


 続けて届いたメッセージには「12時に駅前で待ってる」とだけ。


 ハル君が住む街から、少し都心に近い私の最寄り駅が待ち合わせ場所。


 デートの時の待ち合わせのパターンだけど、今度は何だかいつもと違う、それって女の勘なの?


 何となく、こうして付き合っていつかは結婚出来ればいいなと思っていた。


 もしかしたら、終わるのだろうか?

そんな不安な気持ちを洗い流すようにシャワーを浴びる。



 ❉・❉・❉


 答えを知るまでの間、いろんなことが頭の中を巡った。


 ハル君とは大学時代の友達との飲み会で出会った。

 その時は特別な感情も持たなかったけど、たまたま行った映画館で声をかけられ、お互いに一人だったので並んで映画を観た。

 その時の映画は期待はずれだったけれど、連絡先を交換して毎日のようにLINEでメッセージを送り合うようになった。




 幸江さちえちゃんがサチになり、晴臣はるおみ君がハル君とゆっくり変わったように、隣を歩く時の距離が縮まっていき、時間や記憶など、共有しあうものが増えていった。


 駅前はたくさんの人で溢れている、家族連れや学生、恋人同士キラキラした空気は私以外の周りだけで煌めいているように感じる。


「なんか久しぶりだね」

 いつの間にか、そばに来てたハル君の声に慌てて振り向く。


 いつものように、寝癖をつけたハル君が笑っている。



「また寝癖ついてんで、ほんで話があるってなんなん?」


「ん──時間がないから歩きながら話す」


 ズンズン歩きだすハル君私より30センチも高いから歩幅が大きい、いつも早足で歩かされる。

 慌てて大きな背中を追いかける。




「今から、大阪にいくよ」


 思いがけない言葉を言われて驚く私にハル君は照れくさそうに笑う。


「お前の母さんに会って許しをもらうために……結婚を前提に同棲させてくださいってさ、いくら忙しくても、一緒に住んでたらもっと同じ時間を過ごせるだろう?」


 私はびっくりして、ハル君のコートの袖を掴んだ。


「話があるって、それ?」


「うん、サチは嫌?」


「嫌なわけないやん、てか別れ話やとおもてた」


 その言葉にハル君は慌てた顔をして「なんでそうなる?そんなに俺信用されてないのか?お前バカか?」


「バカちゃうわ!関西人が使うアホって言葉には愛情も入ってるけど、バカはあかんねん」


 そう言いながら涙が溢れた。


「お前アホやな、これでいいの? 」


 下手くそな関西弁で返してきたけど、私は嬉しくてロケットみたいに空の果てまでびゅーんと飛んでいってしまいそうだった。


「ほんでも、久しぶりに帰るねんで、大阪に帰るのに、何も持って来てないやん」


「まぁ、どうにかなるだろ」


「そやけど、化粧品も着替えもないねんで」

 ブツブツと文句を言いながら隣を歩く私の左手にそっと指を絡めるハル君。


「じゃ、やめとく? 」



「アホ、やめるわけないやん」


 新幹線の中から掛けた電話に母さんは、びっくりしながらも嬉しそうだった。


 急いで掃除をしたであろう久しぶりの実家は、滅多にお化粧をしない母親と一緒でおめかししているみたいだけど、あの頃と同じ懐かしい匂いがする。



「初めまして、春日晴臣です、幸江さんとお付き合いさせて貰ってます」


「そんな、カチコチにならんかてええねんで、お昼ご飯食べた?お好み焼きでも作ろか? ご飯も炊きたてがあるで─」


私はハル君と顔を見合わせて笑った。


「お好み焼きだけでいいわ」



 そよ風が、ほんのりと甘い空気を運んでくれる、春はもうすぐそこまで来ている。


 今年の桜の花はきっと最高に綺麗だろう。


【おしまいやで】(本文2,222文字)

フゥ(o´・`)=з疲れた





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