外伝第18話 リザルト

 毛食賊襲撃の大激戦から一夜。

 サンサンと光る太陽が晴れやかな兵士達の頭を照らす中、現在俺はとある部屋の一室に聞き耳えを立てている。


『な、なんだこの白くてベタベタした物は!?や、やめろ・・・私にそんな物を・・・』


 俺は部屋から漏れるトリスタンのチャットを見ながら、同じく聞きチャットを立てるマーソンにささやきチャットで話しかける。


「な、なぁ・・・やっぱこれってあれだよな?エロゲーでよくあるそういうアレだよな?」

「ええい、今大事な所であるぞ、話かけてくるではない!」


 俺はマーソンに顔を顰めながらも、扉越しのチャットを凝視する。

 

 このゲームってR18じゃなかったよね?良いの?そんな展開ありなの?

 

 混乱は解けないが、とりあえず俺はトリスタンのチャットを女騎士系なボイスに勝手に脳内変換しておく。

 

『今更怖じ気付いたのか?お前の大事な物はとっくに俺が頂いたっていうのによ』

『う・・・だがそれとこれとは別問題だ!』

『っは!よく言うぜ、とっくに俺無しじゃあ生きていけない体になってる癖によぉ!』


 扉の向こうでトリスタンの「ぐぬぬ」チャットが流れる。

 

 はいくっ殺頂きましたぁー!

 やっぱこれってアレだよな?だが相手はカツラだぞ?・・・ははぁんわかったぞ。

 これはカツラを触手に見立てたそういう奴だな、千のエロゲーを極めた俺にはわかるぞ?


 若干前のめりになりながらも、成り行きを見守る。


『うう・・・気持ち悪い・・・まるで私の中に沁み込んでくるような・・・しかもドンドン硬くなっていくぞ・・・?』

『我慢しろ!もうすぐ俺も新しい何かに目覚めそうなんだよ!』

『う・・・ぐ・・・う・・・』


 やっべぇ!これもう完全に最中だよね!?って事はあれか、今扉を開けたらもう大変な事に・・・


「さて、そろそろ頃合いであるな」

「え?ちょま!マーソン師匠!?」


 いくら師匠でもそんな大胆な!? 

 一人あわあわしている俺を無視して、マーソンが扉を開け放つ。


「きゃ、きゃああああああ・・・ってあれ?」


 開け放たれた扉をガン見しながら悲鳴をあげた俺は、しかし驚いた表情でこちらを見ているトリスタンを見て顔を訝し気な物に変化させる。

 

 ・・・何事もない?

 トリスタンは最中どころか、いつも通りのキチッとした身なりのまま椅子に腰かけている。

 というかよく見ると、机の上には現実世界でよく見かける物が置いてある。


「・・・お前ら何してんの?」


 俺のしらけたようなチャットに、カツラとマーソンがチャットを合わせる。


「「ふふ・・・わっくす」」


 よしお前等表に出ろ。


      ◇


「それでは、今回の戦時報告リザルトに入ります」


 今朝のテンションから一転、欠伸をしながら司会のテディに視線を向ける。


「まず戦勝金ですが、今回はアーサー王の毛食賊討伐クエストで銅貨50枚、防衛線で20枚、合わせて銅貨70枚です」


 銅貨10枚で銀貨一枚、100枚で金貨一枚と考えると・・・随分としょっぱい数字だな、正直戦勝金と言って良いのか?ってレベルだ。


「そして今回の我が軍の被害率は130人、街の全壊と城の修復で・・・合わせて金貨20枚程度でしょうか」

「見事な大赤字であるな」


 俺は地面に正座させているマーソンをきつく睨む。

 こいつを椅子に座らせてやる義理はない。


「はい、ですが資金的には大赤字と言えますが全体的に見ると大分黒字であります、まずはこれを」


 そう言いながらテディがいつものように、円卓に座る騎士達に紙を渡していく。

 ちなみに今回第3番席のエレンと4番席のカーボンネックはお休みだ、なんでも夫婦の営みで忙しいとか、あいつら俺の招集をなんだと思ってやがる。


 俺がブツブツ言う中、各々が渡された紙を見て三者三様な表情を浮かべる。

 紙の内容がこの付近一帯の勢力図だが・・・ 


「キャロットの領土を掠め取ろうとしていたのぶにゃが軍は崩壊、それに加え一揆を抑えきれなかった事により領土を削られ、致命的なダメージを受ける事になりました」


 見るとのぶにゃが軍と俺達キャロット陣営の間の地帯が、近隣の領主に吸収されているのが分かる。

 実は最初は俺達も領地を獲りに行こうぜ!とか言ったが、アズリエルさんに却下された・・・というのも・・・ 


「これによりのぶにゃが軍が我等の国に報復として宣戦布告してくるには、間の周辺国を蹂躙してこなくてはならなくなりました」


 アズリエルさん曰く「隣接してない と 戦を仕掛けれない 安心」、だそうだ。

 まさか戦後の事まで考えてるとは思いもしなかった。

 アズリエルさん・・・恐ろしい子!


「それに加え、我々は新たなる仲間を手に入れました」


 テディの言葉に、3時の方向に座っていたトリスタンが立ち上がる。


「私は勇者神無・トリスタン、新たにアーサー王に仕え、騎士の称号をいただいた」 


 キリッとした表情を浮かべるトリスタン、ちなみになんでそんな微妙な席に?と聞いた所、「正面だと・・・目が合って・・・なんでもない」、と、要領がつかめない事を言っていた。

 トリスタンの事はまだ深くは知らないが、礼儀正しくかつ俺を甘やかしてくれる人材だと期待している。


 そしてそんなトリスタンの頭の上にいるのが・・・ 


『俺はカツラ、全人類の毛根を死滅させるのが目的のエリートカツラだ』 


 そんな物騒な事を言うカツラは、現在サラリーマンのようだった髪をサラサラの金髪にしている。

 なんでもやつは一度吸った毛根の髪質を覚え、毛質を変化させる事が出来るらしい。

 このスキルを使いトリスタンの毛根という大事な物を吸収、トリスタンの戦力を犠牲に艶やかな金髪に変化したという訳だ。

 ちなみにさっきのワックスも新たなスキル習得の儀式だったらしいが、ワックスは100髪質ポイントを消費するからあまり使いたくはないらしい、そしてどうでも良い。


「お、おい!急に喋るな、私が変な事を言っている頭のおかしい奴みたいではないか」

『俺の声が聞こえない奴からしたら今のお前の状態のほうが頭がおかしい奴だろうよ!』

「ぐぅ!?」


 カツラの言う通り、カツラのチャットが見えないテディや赤い騎士、日記を書いてるテカテカ兵は首を傾げている。

 どうやら知力はトリスタンよりカツラの方が良いらしい。

 そんなギャイギャイしている奴らを見て、一人の男が俺の隣の席で笑い声をあげる。


「ふふ、しばらく見ないうちに私の知らない顔が随分と増えましたね」

「いや、お前は何で普通にここにいんのよ?」


 追放したはずのランランロットから距離を取る。


「そんな物、脱退した後の再加入制限期間が終わったからに決まっているではないですか」

「・・・そうだとしても俺が許可しない筈なんだが?」

「許可 し た」


 テーブルの下から、俺の膝まで這い出て来たアズリエルさんに思わず飛びのく。

 急に出て来たからびっくりしちまった!おかげで心臓がバクバクいってやがる。


「そういう訳です!そして新参者が増えた所で私から一つ言っておく事があります、アーサーのし」

「ところでアズリエルさんに聞きたい事があるんだが」

「な に?」


 無表情に小首を傾げるアズリエルさんにドキドキしながら、今回の戦闘の疑問をぶつける。


「今回のぶにゃがが軍を引いた理由は一揆が原因だって事は聞いた・・・もしかしてそれもアズリエルさんの作戦だったのか?」

「そう」


 まじか、ウチの陣営には隠密ユニットはいなかったはずだが・・・

 俺の首を傾げるモーションに、アズリエルさんが外を指さす。


「あれ」

「あれは・・・カフェイン?」


 俺は城門で手を振るカフェインに視線を向けると、ランランの話を聞いていたテディに道案内を頼む。

 しばらくすると、白ふわヘアーのガキが俺達の会議室に到着、勝手に円卓の空いてる席に座る。


「やぁやぁ今回は大変だったネ!怪我は無かったかイ?」

「おかげさまですこぶる元気だよ」


 カフェインの言葉にトリスタンが、「けがなかった!?」と頭部をおさえているが今は無視だ。


「カフェインの方こそ大丈夫だったのかよ?最後に見たときには偶然にも毛食賊に追いかけられてたけど」


 まぁ俺のせいなんですが。

 しかもその後エンドに行ったって事は毛食賊の襲撃にも一揆にも立ち会ったはずだし・・・


「大変だったヨ、大変だったサ!でもこのぬいぐるみのおかげで助かったヨ」


 そう言いながら例のメケメケぬいぐるみを取り出す。


「これは凄いネ、毛食賊を引き付ける効果があるんだヨ!襲われた時もこれを投げて危機を脱したってわけサ」

「へぇ・・・身代わり人形的なやつか・・・」


 アズリエルさんはそんな便利な物をよく作れ・・・ん?

 それってよくよく考えたらそのぬいぐるみのせいで毛食賊に襲われたともとれないか?


 ぬいぐるみを見ながらニート細胞を働かせていると、アズリエルさんがこっそりとメケメケぬいぐるみの腹をさく。

 その中身は・・・


「しげんの ゆうこうかつよ う」


 俺は恐らく兵士の髪であろう物を見て顔を引き攣らせる。

 この子は本当に俺の予想の斜め上をいく子だ・・・


 かくして。

 のぶにゃがの野望は一人の軍師によって打ち砕かれたのであった。


      ◇

 同刻、魔王量サータン城。


「時は来た!」


 全身を黒い甲冑で覆った男のメガホンチャットが鳴り響く。


「愚かなのぶにゃがは地に墜ちた、今こそ我らが娘に血をささげよ!」

「「「「「イア!イア!イア!」」」」」


 甲冑男に続き、デカいホールに化物の声がこだまする。

 化物・・・自由なクリエイトと統率力の低さから、個人戦において最強を誇る悪魔族のアバター達。

 そんな悪魔族プレイヤー達が、半狂乱になりながらチャットを連打する


「我らが娘への領地をかかげよ!全軍進撃開始!」

「「「「「WRYYYYYYY」」」」」


 その光景を、天幕の向こう側で無機質な瞳が見つめている。


 神歴5年の夏、悪魔族の大侵略戦が始まろうとしていた。


 次回、虚像崇拝・・・TO BE CONTINUED   

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