第2話 ストーキングではない、勧誘だ


 四方を大森林に囲まれるキャロット

 そしてキャロットの領主にして100戦100勝のニートゲーマーたる俺、アーサー  

 最近の悩みは一日の睡眠時間が1~2時間くらいになってきた事だろうか?


 そんな俺が現在何をしているかというと・・・


「というわけでですよ?このゲームをプレイするうえでギルドというのは必要不可欠、しかも上位ランカーの国は中々ブラックで一日ノルマという物も存在するんですがね?その点ウチのギルドはノルマも無いし自由だと思うんですよ!どうです?先っちょだけ!先っちょだけで良いから署名してみませんか?」


 現在新規プレイヤーらしきアズリエルの勧誘に勤しんでいた。


     ◇


「・・・」


 新規プレイヤーに張り付いてはや数時間、延々とチャットを流すのもなんだか疲れてきた。

 アズリエルは俺に見向きもせずにずっとレベリングしてるし・・・  

 だが俺も無駄にチャットを垂れ流し続けていた訳ではないぞ?おかげで幾つか判明した事もあるのだ。


 俺は初期モンスターと戦いレベリング中のアズリエルを見ながら思い出したかのようにチャットを再開する。 


「あ、そういえばそのモンスターの素材はストーリークエストで必要なんだよなぁ」


 俺の言葉に魔物を討伐してそのまま立ち去ろうとしていたアズリエルがピタリと動きを止める。

 そしてしばらくするとインベントリから何やらアイテムを処理し、ドロップした素材を取得している。

 そう、一見してこの子は俺の話を全く聞いてない風に見えるが、実はちゃんと聞いてたりする。

 最初はブロック設定でもされたかな?と思っていた俺だが、この習性を発見して希望を見出したのだ。


 上手く誘導すればこのままギルドに加入も間違いないだろう、今の内に誤情報も混ぜて俺好みにステータスを調整していけば・・・くく・・・笑いが止まりませんなぁ!


「ねぇ」 

「くっく・・・へあ?」


 邪悪な笑みを隠すために顔を逸らしていた俺は、突如画面を覆い隠してきたアズリエルさんに素っ頓狂な声をあげてしまう。

 今まで俺に無関心だったアズリエルが遂に興味を?

 なんだか今までの苦労が報われたようで少し嬉し・・・おっと、彼女はあくまで俺の領地の養分になってもらう存在だ!間違っても情を移す訳にはいかない。


 俺はエモーションを真面目な顔に戻してアズリエルにターゲットを移す。


「どうしたのかなアズリエルさん?」

「どうやって ついて きてるの?」


 ふむ、何だかチャットがたどたどしいな、そういうロールプレイなのか?

 折角だからボイスは勝手に脳内保管しておこう、そうだな・・・見た目は同い年くらいのアバターだが・・・若干舌足らずの幼い系だろうか?おっと、今はそんな事を考えている場合じゃ無かったな。


「エンゲージというやつですよ、よく見ればわかりますが画面の俺とアズリエルさんに青いリングが現れているでしょう?これを使えば対象を自動で追尾したり、同じモンスターをターゲットしたり出来たりと便利な機能なんです」

「そう」

 

 俺の話を聞いたアズリエルは、全く興味が無さそうにモンスター狩りに戻って行ってしまう。  


「・・・ちなみにエンゲージにも種類があってですね、目で追うだけでは混戦でターゲットを見失ったりしますが、手を繋いだりお姫様抱っこしたりすれば相手を見失う事は無いというものでしてね?」


 そこまで言ってチラリと狩りの様子を見るが、全く興味が無さそうだ。

 イマイチ彼女が反応する話題性がわからん、せめて感情表現を使ってくれれば・・・そうか!その手があったか!


「そういえばエモーションというのは知っていますか?チャット欄の上にある人の顔アイコンが目印なんですが、使えばキャラクターが表情豊かになって面白いですよ?」


 これならチャットを打つのが苦手なアズリエルでも簡単に出来るし、ついでに俺もコミュニケーションが円滑になってハッピー、我ながら良い案だと思うが乗って来るか?


 モンスターを狩り終えたアズリエルは、こまめにドロップ品を回収するとしばらく微動だにしなくなる。

 作戦は失敗か?いや、微動だにしないのは操作が分からない可能性もある。


「あー、アズリエルさん?マウスでアイコンを押せば」

(失笑)

「・・・」


 なんかめっちゃ失笑されてしまった。

 どうやらアズリエルの興味は引けたようだが、よりにもよって一番感情の機微に乏しい物を・・・


「・・・ちなみにそれ以外のエモーションだと」

(失笑)

「えーと・・・笑顔とか」

(失笑)

「逆に泣いたりと」

(失笑)


 どんだけ失笑気に入ってんだよ!?

 え、何?煽られてんの俺?遂に思い通りに相手を動かせたと思ったらこれかよ!

 まさか最初からからかわれてたりするのか?からかい上手なアズリエルさんだったりするのか!?

 ・・・いや、深く考えるだけ無駄か。

 

 溜息を一つ。


「・・・失笑はあまり使わない方が良いですよ」

「そう」


 俺の言葉にアズリエルは素直に頷くと、再び狩り対象を探す為にクルクル回り出す。


 はぁ、なんか疲れてきた。

 元々引きこもりの俺が勧誘とか無理があったのかもしれない、というか新規のプレイヤーに何時間も粘着するとか結構ヤバイ迷惑プレイヤーなんだよなぁ・・・ほぼストーカーの域・・・おっと、これは勧誘だ勧誘、変な事は考えないようにしよう。

 しかしこれならまだ領土戦の為に徹夜した方が気が楽か・・・もう時間も時間だしランランに伝言残してログアウトでもするか。


 諦めたようにステータス画面を弄っていると、再び画面が美少女フェイスで覆い隠される。


「歩くWIKIおじさん」

「・・・なんですかその呼び方?」

「りゃくしてアーサー」


 その略し方はおかしくないか?いやまぁ確かに彼女にとっては歩くWIKIおじさんなのかもしれない。

 アバター年齢自体は近いし、恐らく中の人はおっさんであろうアズリエルにおじさんと言われるのは若干複雑な物があるが、ここは黙っておこう。


「まぁそれは良いです、それで?どういったご用件でしょう」

「まちにいきたい」 


 アズリエルがインベントリを叩きながら俺を見上げる。


 ああ、ここ数時間ずっと狩りをしてたからな、途中から分別したとはいえさぞゴミアイテムが溜まっている事だろう。


「それは良いですがここからだと少し距離がありますね・・・そういえばギルドの機能には自分の領地に一瞬で飛ぶ機能もあるんですよ、良かったら体験してみませんか?」


 まぁギルド員じゃないと使えない機能だけどな!・・・流石に無理があるか。


 溜息混じりに近隣の街へのルートを検索していると、ピコンという音が流れる。


【アズリエルが キャロット陣営に加入した】


 俺の苦労を返せ!

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