第百七十二話 ドーラ、ブチギレる


でも、半年にもなると、もう主要メンバー死にそうになっている。飯食っているから体力はどうにかなっているけど、もう精神がきつい。


「これほどの差があるとは思ってもみなかった、ゲスザンスの者達の方がまだ理解しやすい、、」というジオの本音がみんなの本音だろう。


毎回毎回、しかも今居るのが終わっていないのに次々に増えていく。賽の河原の石積みどころじゃない。

なので、

「交代で休め!休暇は7日以上!海岸領に行って一切業務に関わるな!こっちも向こうも連絡禁止!!」

とドーラがブチ切れた。


それでもユータから見ると、ムータンの者達はかなりマシだ。

だってユータは、小学校の後半や中学で執拗に無意味にいじめをしてくる奴等、それを黙認する奴等、が子供大人にかかわらずほぼ全員で、しかも父さんの会社の社長やうちのおばさん、市さんの道場のやめてった奴等みたいなわがまま身勝手が通らないと衝動に走るような者達ばかりだった。


それに比べりゃ、このムータン人達は理性で自分をコントロール出来ているように見えるし、素直で真面目な部分もかなりマシだし、実直にも見える。だからかなりマシに見えた。

が、

ドラゴニアの子どもたちと比べたら?と言われると、、、足元くらい?としか言い様がなかったが。


いくら向こうの世界でかなりマシだと言えども、向こうの世界自体に社会という概念が希薄、社会に対する責任という意味合いがあまりわからないというか、自分の存在を自分で責任を持つという意味合いが判っていない。そういう責任が社会の根幹なのだが、その存在を理解できていないように見える。

精神性が成熟できないわけだ。根幹が無いのだから。



ドーラはブチ切れてダンマスにも言った。

「うちの者達は半分は研修にかかわらないようにさせるから!。うちの者達がダメになっちまう!。あとはムータンの者達同士でどうにかさせて!!どうにかしないと、同盟切るから!!」


「わかりました。言っておきます。」ダンマス


その足でダンマスは移民を送っていない時に向こうに行き、ムータン国王と話し、ひと月でどうにかなりそうな気配が無い者達の世帯は向こうに一度戻すことに決めた。

国王もそこまでの違いがあるとは思っていなかったようだ。それはそうである、両方をよく知るドーラでさえそう思えていなかったのだから。


研修の現場にいきなりドラゴニアの者達が半減したムータン先陣達は焦った。でも、それでも愚痴を言う者達は先陣の者達には居なかった。流石だ。

彼等は、どうにかしようと夜遅くに皆で話し合い、更に「無理なのは向こうに返す」という決定がなされてからは、研修は短期集中の効果をあげるために厳しくなった。別にダメでも死ぬわけではない。向こうに残される組みに入るだけだ。そのうち良くなればまたコチラに来る機会もあるかもしれない。


結局、民間第一陣から全て含めたうちの3割弱が帰国のペースになっていた。最初のほうは勿論帰される者達は少ない。


それから二ヶ月くらい経ち、ドラゴニアの者達はどうにか復活してきた。

そうすると情況をそれなりに見ることもできるようになる。


「近衛兵や王様の側近たち、やるじゃん?」ガンダ

そうなのだ、ドラゴニアの協力者達が激減してから一挙に彼等が伸びた。

本気で、自分達でやらねばならない、と実感し始めたのだろう。



孤児院に居た者達にはムータンの者達の感覚はわからない。

孤児院では、勿論院長先生がいたが、主に年長者達が下の子達の食事を調達しなければならなかった。でないと不足もいいとこなのだ。それ以外のことなど病気とかの緊急性以外は手が回らなかった。


下の子達もそれをよく見ていた。なので、一日でも早く自分も稼げるようになりたい、みなのためになりたい、と心底願っていた。

家族に対する責任観念がもう小さい頃からその心に確立されていた。


彼等はその後ドラゴニアに。一人前になりたいという意欲は常にあり、ドラゴニアでの手本はガンダ達やユータとドーラだ。まぁ、ドーラは竜人なので特別だけど。


更に、孤児院の年長者でもあったガンダ達は自分達が見られていることを知っている。なので手本になるよう生きることが染み付いている。孤児院で年長者になったのは12−3歳の頃だ。その頃からなのだから。


ゆるく出来る所はのんびりだらだらしても、肝心なところでしっかりベストの結果を出す。そんなガンダ達やリーダー達を子供達は見て判っている。


なので、ムータン人達への協力がいきなり半数になったのも、それまでの研修から納得は行っていた。

「本来、彼等は自分達で率先して行うことだ」と、最初から思っていたのだ。

だってドラゴニアの子どもたちができていることなのだから。


今までだって、他国から逃げて来た者達、新しく来た者達を、自分達みたく精神的に自立できるようにしてきたのだから。


ーー


ドラゴニアの南の水路から出るフェリーは、もう定期的に運行を始めていた。

モモンガ船長の一族の数名がこちらの”西南航路フェリー”数隻の船長になり、フェリー班の者達を鍛え上げてくれる。

最初は4隻。フェリーが入港してきたら、港にいた船が出港する。という単純なローテ。

なので4日か5日置きに船が出る。


もしカーフェリーにしたらトラック20台も載せられないんじゃないか?程度の船だが、こっちの世界では今まで他の国には無かった大きさの船。水路ダンジョンの最初の船と同じサイズ。

流石にクイーンリズ号同サイズは水路ムリだから。


船倉の一部はストレージにしており、南から海産物を運んでくるには丁度良い。今のところ北側から持っていくモノは特に無い。海岸の宿の物資は、転移扉で十分間に合ってしまう。肉は海岸領の森で狩るので必要ないし。


ドラゴニアの休暇に入る者達の多くは船旅を希望し、休みの半分を船旅に費やす。天候もほとんど崩れず、たまに海岸領付近でスコールに降られるくらい。

旅であるから、それもまた楽しめるものだ。


南に着くと、休暇の者達は海岸か沖の小島に滞在する。体力の有り余る子は人魚達と遊び、のんびりしたい者は筏でごろ寝したり、他の者達や人魚達と他愛のない雑談をしたり。



「あれだな、、海岸領が出来たときに休暇という概念ができたけど、あんときは遊びに行くのが休暇みたいな感じだったけど、、」ドーラ

「うん、今回ので本格的な休暇ってのを、皆わかるようになってきているみたいだねー」ユータ


少しは実りがあったのかな?

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