第八十五話 ナディ 農場から


なんかへんなモモンガに捕まってしまったことは、ナディにとっては取るに足りないことだった。

まぁ、どーでもいいわ。と思っていた。

いや、むしろ、物事がイベントが起きてくれただけ自分から何かしなくて助かった、という感じでもあった。

かなり疲れていたのだ。


領都近郊の農場にいたが、国が東に侵攻し始める前から農場の作業員達は領主の兵にとられてナディも慣れない農作業に駆り出されていた。が、その畑も、素人目に見ても「だめだなこりゃ」状態であった。

そのくせ、戦時だと言っていつもより多く領主に取られ、農場ではひとが食べる分もほとんどなかった。


作業していると向こうの方に見える街道では、街から続々と人が南の方に逃げていっている。

ナディもある夜、農場を抜け出してその群れに混じった。


この領の人びとには久しぶりの戦争だが、その20年ほど前の戦争の時を覚えている者達も少なくない。その時はなんでも圧勝だったらしい。が、その戦前から倍の年貢と男手を取られ、その圧勝後でも何の利益の分け前も恩恵もなく、しかも税はそのままにされたことは、人びとにとっては悪夢でしかなかった。

今回も先は見えている。それに付き合うのは余程のバカかチキンである。


前回は前例が無かったので、領主の扇動に乗って煽るバカも多く居て皆騙された。今回の扇動に乗るバカはほとんどいない。

昼間は何でもないふりして、夜にはせっせと夜逃げの準備をし、準備できた一家はとっとと逃げていった。家があろうがなかろうが、どうせ食い物にすら困ることになるし、その後も毎日困窮するに決まっている。少しでも脳がある者ならば残る理由は無いと理解できる。


人びとが逃げれば、モノの流れも生産も停滞する。それだけで領経済はすぐに破綻するだろう。

そこまでわかる者は居ないが。

ただ、

その数日後に、ドーラ達によってその領都は消滅した。

それを逃れた、というだけでも、逃げた者達には先見の明があったとも言える。

少なくともゲス領主のためにならないこと=逃げること、をしたことは人として褒めるべきことだろう。


領の南端の村の最終地点では、なぜか傭兵たちが人びとが南に向かうのを邪魔していた。

領民を逃さないようにと領主が雇ったのだろうか。でも人数の差がありすぎて人びとはその検問所からぼろぼろこぼれて南に逃げていた。


一人だったナディも簡単に逃げられた。荷馬車を引いている者や家族連れは難しそうだったが。

ここまで2日、革袋に水は持ってきたが、食料にと持ってきた熟していない野菜などは初日になくなっていた。

腹膨れないからね、歩きながら何気に食べてたらすぐ消えてしまう。


なので、峠でモモンガ達に捕まって、敷かれた絨毯の上に座った時は倒れ込みそうだった。しかも茶と食い物を出してくれた。

もうモモンガの奴隷でもいいかな?結構待遇良さそう、少なくとも農場よりよさそう、とか思っていた。


その後、領都消滅をもろに見たナディは、(何が起きたのか理解するにその後数日掛かったが、)とりあえず追手もなくなったようだし、ここはもう違う国のようだし、安心だな、とは思えた。


その直後にいきなり魔法でどっかの邸の中に行ったときは少し混乱したが、まぁ問題は無かったし、、魔法ってこんなもんなんだろうと思った。

入り口でなんか自分のことでいろいろあってツッコミ疲れたけど、まぁ悪そうな者達ではなく、皆若く、感じは悪くはなかった。なので成り行き任せでいいわ、と思った。しかも厨房から出てきた子どもたちに指図されて席に座っているし、、、


その後美味い食事を食べられたのはとても幸運だった。なにせ多分産まれて初めて食べた美味しい食事だったから。


食事中もそうだったが、食後、貴族みたいにお茶など飲んでいる時の会話もよくわからないけど不穏なものだった。

ナディが居た国は必ず滅ぶらしい。ホロン部とかいう部活では無い。(注:何もかもが懐かしい、、)

それだけでも逃げた意味は完璧無比キタコレもんだった。


私の名の意味を解明して、私をツッコミ役に任命し、魔法使いらしき人の下に付け、学校に通うように言いつけたのは、少年の姿をした竜人のこの国の国王。


私は居場所を得た。与えられた。

逃げたのは、この幸運を得るための最善の道だったわけ。


その晩はその邸?の空き部屋で寝た。空き部屋と言っても小さな子達が用意してくれ、清潔で見たこともないようなベッドのある大きな部屋。貴族の部屋見たく、、落ち着かないけど、、夢にさえ見ることすら無理だったほどの部屋。一度でもこんな部屋で眠ることができるのだと思うと、これが夢に思えて仕方がない。

と思っていたら、

コンコン、

何の音??


コンコン、ガチャリ、、

先程の私の監督になった人、魔法使いの人。

「さあ、お風呂に行くわよ」

え?

「お?ふろ?」

聞いたことはあるが、うん、知ってはいるはずなんだけど、、、、、なんだっけ?


結局テイナがそれに気付き、とりあえず連れていき、中ではテイナが全部洗って、やり方を教えた。

風呂を出たときには、古い服は回収され、洗濯が終わったちょうど合う大きさの服と下着が置かれていた。

「古い服は担当の子どもたちが洗ってくれるから。この洗濯終わっているものを着てね。」テイナ


着古しではない。新品ではないが、作られてまだ新しい。女の子用らしく少しだけフリルとか付いている。

こんなの初めて。というか、ここまで新しいのは始め着る。少し重く感じるのは、まだ生地は厚いからだろう。その重さも心地よい。


「お祭りとかのよそ行きは、またその時にあげるから、普段はそれを着てね。で、お風呂に入る時はここのかごに入れておいて。着替えはもう担当の子達が貴方の部屋に持っていっているはずだから、お風呂の時はその着替えを持ってきてね。風呂のタオルはここにあるのを使って、使い終わったらその隣のこのかごに入れてね。汚れ具合が違うんで、一緒にすると叱られるわよ」


説明はわかった。わかったけど、、毎回着替えるの?

「つまり、、毎回着替えるの??」

「そうよ。うちの国は、全員家族なので、皆仕事を分担しているの。だから大丈夫。そして貴方にも仕事があるから、ガンバッてね。とりあえずお茶を飲みながら教えるから。私はテイナ。あなたはなでしこ、ナディでいいのよね?」

「ええ、ナディでいいです」



それからまたあの食後にお茶した場所で、子どもたちがお茶とお菓子!を持ってきてくれた。

食べていいのかどうかわからないので迷っていたら、全部食べていいのよ、と言ってくれた。

「うちで作っているのでいくらでもあるから、あせらずゆっくり食べなさい」とテイナが言う。

それに従って、ゆっくり、お茶を飲みながら食べる。


気付いたらテイナが見ている。

「いいのよ、うちに来たばかりの子達は、皆同じだから」

??

「来たばかりの子、たち?」


「ウチの国はね、皆孤児なの。孤児院の子たちから始まった国なの。」

?????

「そうね、、わけわからないわよねぇ、、でも、、なんだろう、、幸運が重なり合ってここまで来れた、んだろうね」

なんか、知らないけど、、


「よくわからないけど、そういうのはわかります。私も多分、幸運が重なって今ココで美味しいお菓子を産まれてはじめて、、

あれ?、、涙が、、、しゃべれない、、、


気づくとテイナが抱きついていてくれている。

そのまま泣いた。



ナディはそのまま寝入った。

寝入ったナディをテイナが膝の上にしてなでていたら、

「おう、どうだ?」

ガンダが入ってきて訊いた。


「うん、、この子、なんか孤児院とはまた違った苦労をし続けてきたみたい。お風呂も知らないし、多分お菓子や夕飯も初めてなんじゃないかな」

「・・・・かなり酷い孤児院並かな、、」

「農場、それも領主の農場って言っていたからねぇ」

「奴隷か、、それを普通だと思って生きてきたんだろうな、、、」


「うん、孤児院ばかり見てきたけど、、そういうところにも子どもたちはいるんだね、、今回の避難民達にも孤児がいるかもしれないね」テイナ

「ああ、担当の子達に任せてみよう」

「うん」


ーー


朝、食堂

「おはようございます」ナディ

「あら!もう起きたの?!!」朝食を作っている厨房班の子

「うん、いつも早起きだったから、、」

「・・じゃ、手伝ってくれる?台所仕事、できる?」

「うん、仕事がそれだった」

んじゃーねー、と、その厨房の子はナディを中に連れていき、皆に紹介し、テイナの下に付いたからうちでもらっちゃえ!といい始め、ナディができることを与えた。


自分が毎日やって来たことを、ここでもやる。それが自分の仕事になる。ありがたかった。

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