男子会 / age27

待ち合わせの飲み屋に入りアイツを探す。

ひらひらひら。

デカい図体が手を振る。

「おう、久し振り」

「また筋肉増えたし……がっかりだよ」

ははは、と人懐っこい笑みは変わらない。

「人を日本に呼び寄せといて半年後には武道教室の講師にジョブチェンジしたお前の経営手腕は如何程なの?」

「まあまあだな、俺には丁度いい」


大学院後の将来に悩んでいた頃、教授となったタケルの伯父の手伝いを共にしてくれと誘われて日本こっちに来て三年目。

甥も甥なら伯父も伯父、輪に掛けた突飛さと適当さで年々出奔率が高くなっている。

「伯父さんも相変わらずで、すまんな」

「学長選も近いし面倒臭がりだからなぁ、ミツルさん。も足を引っ張らないように気を付けないと」

ここでタケルがぷぷっと吹き出す。

「仕方ないだろ、ひよっ子がたまに立つ教壇で『俺』って言う訳にはいかないし、公私分けて『私』を使うのは面倒臭いんだからさ。何で一人称がひとつじゃないんだよ、本当に謎」

「無理してやさぐれた『俺』よりもお前には合ってるよ。で、臨時講師はどうなんだ?」


見た目と言語のギャップが受けるらしく、たまに行う講義は毎回大盛況。借りている教授の部屋は最早学生の溜まり場と化している。

「あとは、バレずにどこまで行けるか」

下手をすればミツルさんに迷惑が掛かる。

それだけは避けねばならない。

「その時はその時だ、気にすんな」

気休めでもそう言ってくれると有り難い。


ついでに、ある件について相談でもしてみるか。

「そうそう、今期の学生の中に利き腕を骨折してる子がいてさ、どの教員が声を掛けても無気力な答えしか返らなくて困ってるんだよ。

 どうやら留年組らしくて気落ちしてるのか、全てを諦めたのかって感じで。今までそういう学生居なかったからどうしたものかなと思ってて」

「お前はどうしてやりたいんだ?」

「うーん、放っておく?」

「じゃあそうしておけ」

そう、触らぬ神に祟りなし。

要らぬ面倒事は御免だ。

それなのに。

「………何でニヤニヤしてんのさ」

「そんな事ないさ」

とぼける顔が無性に腹が立つ。


話したいことはまだまだ尽きない。

今夜こそは絶対に酔い潰してやる。

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