第23話 冬が終わったら……?
お風呂からあがってベッドにひっくり返った日菜は、机の上のスマホがチカチカと光っているのに気が付いてうめき声をあげた。
一度、横になると起き上がるのは至難のわざだ。
しばらくベッドの上でころころと転がって。ようやく覚悟を決めて起き上がると、スマホをつかんで、すぐさまベッドの中に潜り込んだ。
靴下なしでは数十秒と耐えられない寒さになってきた。
見ると、メッセージは奈々と彩乃からだった。
『秋祭り、どうだった?』
『黒猫さんとは仲直りできたの?』
真央たちだけじゃない。奈々と彩乃にも心配をかけてしまった。
『大丈夫。今日、仲直りできたよ』
と、いうメッセージとともに、インコがごめんなさいと頭を下げているスタンプを送った。
すぐさま、奈々からは手を叩くクマのスタンプが。彩乃からはクラッカーを鳴らすハムスターのスタンプが届いた。
可愛らしいスタンプにニコニコと笑って、
『お狐さまも無事に渡せたよ』
と、いうメッセージといっしょに二体で
お狐さまの話は千尋たちから聞いてすぐ、奈々と彩乃にも話してあった。
続けて、
『ただの置き物だと思ってたんだけど。これ、おみくじだったんだよ!』
と、おみくじの写真も送った。
恋愛のところだけ同じことが書かれている日菜と悠斗のおみくじだ。
悠斗と仲直りできたことがうれしくて。できるだけたくさんのことを知らせたくて送ったのだけど――。
『落ち込んでたと思ったら、もうのろ気か!』
『この裏切り者が! 燃やせ、燃やせぇい!!』
『火あぶりじゃ~!』
物騒なメッセージとともに、奈々は焼き鳥に食らいつくクマのスタンプを。彩乃はクリスマス用のローストチキンを前に、フォークとナイフを構えるハムスターのスタンプを送ってきた。
日菜がインコや鳥のスタンプばかり使っていることをわかっていて、だ。
「二人とも、ひどい……」
思わず声に出して言って。でも、すぐに苦笑いを浮かべた。
確かに、ただののろ気だ。自覚したら途端に恥ずかしくなってきた。
誤魔化すように、日菜は真っ青な顔で震えるインコのスタンプを送った。
間髪入れずにメッセージやらスタンプやらが送られてくるかと思ったのに。なかなか二人からの返事が来なくて、日菜は首をかしげた。
明日は土曜だからとちょっと夜更かししてしまった。二人とも寝てしまったのかもしれない。そう思ったら途端にまぶたが重たくなってきた。
うとうとし始めているとスマホがチカチカと光った。枕に頬を預けたまま、スマホの画面を確認すると、
『日菜、黒猫さんに告白したら?』
『そうだよ、とっとと告白しちゃいなよ』
二人からメッセージが届いていた。
――二人してからかって……。
日菜は唇をとがらせて、羽を広げて怒っているインコのスタンプを送ろうとして。でも、手を止めた。
日菜が送る前に奈々と彩乃からのメッセージが届いたからだ。
『わかってる? あと四か月でこっちに帰ってくるんだよ』
『今までみたいに黒猫さんと毎日、会ったり。いっしょに夕飯を食べたりできなくなるんだよ』
茶化すように。からかうように。奈々と彩乃が続けてスタンプを送ってくることはなくて。
もやもやした不安と、ずきずきした痛みと。重くなる胸を押さえて起き上がると、日菜はベッドの上にぺたんと座り込んだ。
壁にかけられたカレンダーは十一月。あと一週間もしたら、破いて捨ててしまわないといけない。
十二月が終わったら、来年のカレンダーを新しく出してこないといけない。
一月、二月、三月――。
きっとあっという間に過ぎてしまうだろう。
そして、四月になったら。
日菜はおじいちゃんの家から自分の家に戻って。西中から、奈々と彩乃がいる東中に再び、転校するのだ。
真央や千尋。和真や大地。
それに、悠斗と――離れ離れになるのだ。
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