第24話 独り善がり
校舎へと続く桜の葉も全て落ち、寒々しい景色の中、冷たい風が登校する生徒たちを校舎へと急がせる。
十二月になった。
至る所でクリスマスの飾り付けが始まり、校内も星やらモールやらで、少しづつだがそれらしい雰囲気を出し始めている。
高校最後のクリスマスくらいは、彼氏と過ごしたいと言っていた栗原から、今のところ彼氏ができたという報告はまだない。
それは栗原だけではなく、僕や山川さんも恋人などという青春の代名詞のような存在の影すら見えない。
掛川はどうなんだろうか。
もう彼女と話しをしたりすることも、携帯でのやり取りも、校内で顔を合わせることすらなくなった。
僕が彼女を避けていたせいもある。会わないように。難関大学への受験。いくら県内有数の特進科にいる掛川でも難しいと思う。
邪魔だけはしたくなかった。
元気で頑張っているのなら、それで良い。
それぞれ、みんなは自分の将来に向かって進んでいるんだ。邪魔をしてはいけない。
靴箱で上靴に履き替えていると、数人のクラスメイトたちと一緒になり、みんなで校舎内へと入った。
校内は、外と比べて随分と暖かく感じる。風がないだけでも、だいぶ違う。
自販機によったクラスメイトを待っている間、僕は携帯に目をやると、着信ランプが点滅していることに気付いた。
携帯を開くと篤からで、冬休みに暇な時があるなら遊ぼうといった内容のメッセージだった。
年末年始は実家で過ごそうと思っているといった内容で返信し、携帯をポケットにしまうと、自販機から戻ってきたクラスメイトと教室へ向かった。
午後の教室内は暖房で心地よい暖かさが保たれており、受験も追い込みという時期にも関わらず、その心地良さと満腹感で、睡魔という名の親友が僕のところへ遊びにやって来ている。
頬杖をついてノートの隅に、棒人間などの落書きをしたり、睡魔の誘惑に耐えながら、退屈な授業が早く終わることを願って過ごしていた。
授業の終わりを知らせるチャイムで、うとうとしていた僕は、強制的に現実へと引き戻されると、鞄からペットボトルを取り出し、ぐいっと一口飲むと、軽く背伸びをした。
ふと携帯に目をやると、着信を知らせるランプが点滅していることに気がついた。
篤からの返信かな。
そう思った僕は、何気に携帯を開くと、
「十二月二十四日の午後六時にあの場所で待っています」
思いもよらぬ、掛川からのメッセージ。
あの場所。
最初にデートした時の待ち合わせ場所のことだろうか。地元にある私鉄の駅前。
ここ最近は連絡もなかったのにどうしたのかなと思いながらも、僕は、返信するのを躊躇い、しばらく携帯を眺めていたが、十二月も始まったばかりということもあり、慌てずに返信しなくても良いだろうと思い、画面を閉じた。
それから十日程がたったが、僕は掛川からのメッセージをすっかりと忘れていた。
「あんた、クリスマスは相変わらず一人で過ごすんでしょ」
いつもの三人で下校している時に、栗原から言われた一言で思い出した。
今年の十二月二十四日は土曜日で、冬休みに入っている。僕は、冬休みはすぐに実家へと帰り、始業式の前の日まで、のんびりと過ごす予定を組んでいた。
「分からない」
僕は、栗原の言葉にそう答えると、
「彼女ができたの?」
栗原は、驚いた様子を見せると、慌てて僕の方へと詰め寄った。山川さんも、驚きを隠せず、口元を押さえている。僕に彼女ができることがそんなに驚くようなことなのか。まぁ、できる予定などないのだけど。
「そんな予定は、今のところ微塵もないよ」
「でも、クリスマスを一人で過ごすか分からないって」
「実家に帰るんだよ」
「あ、家族と一緒ってことね」
びっくりさせるなと、栗原が少し安心した様子で、僕の背中をばしんっと何度も叩いた。容赦のない栗原の攻撃に、僕は少しよろついた。
たぶん、本当に家族というか、父親と二人で過ごすのだろう。
掛川からの誘いに対し、行くか行かないか迷っていた僕は、もう返信しようと思わなくなっていた。返信しないことが、その誘いを断っているということをくらいは、掛川は分かっているだろう。
しかし、僕は、掛川と一緒な過ごした日々、その時にみた、たくさんの表情を思い出してしまう。
僕にとって、掛川はとても大切な存在なことは分かっている。
僕が会いたいといえば、無理をしてでもあってくれるだろう。彼女は何より僕を最優先してくれるだろう。
だから、彼女の邪魔はしたくなかった。
ちくりとした痛みが走る。
ただ、それは、こめかみではなく、胸の奥に。
僕は、並んで歩いていた、栗原たちに例えばということ男女の立場を逆にして、話しをしてみた。
黙って話しを聞いていた栗原が、話しを聞き終わると、僕の方へ視線を向け少し厳しい口調で言った。
「それって、ただの独り善がりじゃん」
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