第30話 さぁ、行きましょう


 僕は掛川とD市にある学問の神様が祀られているとして有名な天満宮へと初詣に行き、僕の大学受験の合格祈願をした後、天満宮から駅までの間にある店を混雑している中、はぐれないようにお互いにぎゅっと手を握り散策した。


 参道の脇に昨日まで降っていた雪が僅かに残っていたが、昼過ぎにはほとんど溶けて水たまりとなっていた。


 僕は誰が作ったのか、それともたまたまそんなになったのか分からない道に落ちていた雪玉を蹴りながら歩いていると、偶然にも篤と桜に出会った。


 2人共、合格祈願に来たらしい。


 確か篤と勇次は高校と同じ系列の大学へとバスケでスポーツ特待生として進学する予定じゃなかったかなと、僕がそんなことを考えていると、篤が桜の背中をぽんっと叩き、こいつのだよと笑いながら教えてくれた。


 ついでだからと、4人で一緒に歩いた。掛川と桜がこちらをちらちらと見ながら喋っている。時々、きゃっとかうふふとか嬌声が上がっているが、なにを話しているかはよくわからないけど、とても楽しそうな様子が伝わってくる。


 楽しそうな掛川の顔を見ていると、一緒になれたことがとても嬉しく思えた。


 冬休みはぎりぎりまで実家で過ごす予定にしていたが、卒業するまでの間、掛川とたくさんの時間を一緒に過ごしたいと思い、アパートに早めに帰ってきた。


 受験前日まで図書室やファミレスで、掛川に勉強を見てもらったり、たまに息抜きでボウリングや映画を観に行ったりと、二人の時間を過ごした。


 お陰で僕の受験も無事に終わり、晴れて合格した。


「おめでとう」


 駅前のハンバーガーショップの向かいの席に座っている掛川は自分のことのように喜び、嬉しそうに笑ってくれている。


「ありがとう、掛川のお陰だよ」


 僕がそう言うと、掛川は少し照れたように微笑んだ。


 三月一日。


 その日、僕らは学校を卒業する。


 ついこないだ入学したと思っていた、なんてことは思わないが、それでもあっという間に僕の中で駆け抜けて行った三年間だったと思う。


 本当にたくさんのことがあった。


 人との繋がりを切り、心閉ざしていた。それをこじ開け、支え続けてくれた友人達。たくさんの人達に救われ、支えられたことで歩いてこれた3年間だったと思う。


 まだこのまま高校生でいたい。


 そんな甘いことを思ってしまう自分がいる。


「答辞、卒業生代表三年一組、掛川忍かけがわしのぶ


「はい」


 卒業生代表として名前を呼ばれた掛川が壇上までをゆっくりとした足取りで登っていく。


「三年前の今頃、私達はたくさんの夢を抱いてこの高校の正門を……」


 静かな体育館に、答辞を読む声が響き渡る。


「卒業生、起立!!」


「礼!!」


「着席!!」


 僕は頭を上げて壇上の方へ視線を向けると、壇上から降りようとしている掛川と目があった。その清々しい笑顔はとても自信に満ち、これから先の未来への希望に溢れている。


 校舎から正門まで続く並木道の桜は僕達の旅立ちを祝福してくれているかのように見事に咲き誇り、春の風に舞う花びらは、僕達をその先へと導いてくれている気がした。


 見上げると、雲一つない空がどこまでも広がっている。


「おーい」

 

 声がした方へ視線を向けると、栗原と山川さんが、とびきりの笑顔で僕へ手を振っている。2人は僕へ駆け寄り、互いのこれからのことを話した。


「この校舎も今日で見納めかぁ」


 栗原が校舎を眺めながら、少し寂しそうに呟いた。


「2人とも、ありがとな」


 2人に深く頭を下げた。言葉じゃ伝えきれないほど感謝している。もし2人がいなかったら僕は、この日を笑顔で迎えることができなかっただろう。


「なんだよ気持ち悪い」


 そう言いながら栗原は僕の背中を力いっぱい叩くと、栗原と山川さんは顔を見合わせけらけらと笑っている。そんな2人と再開を約束し別れると、正門へと向かった。


 正門前には黒くて綺麗な長い髪をした、少しつり目の女の子がいた。6年の月日は、彼女を綺麗な女性へと成長させた。


 僕は少しの間、掛川を見つめていると、僕に気づいた掛川が花を咲かせたような笑顔でこちらに手を振っている。


 ゆっくりと掛川の方へ歩き出すと、


「さぁ、行きましょう」


 僕の方へ手を差し伸べてくれた。僕は、その手を取ると、2人並んで学校を後にした。



〜終〜

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