第3話 あいつ
(栗原真由side)
ピロン
ピロン
お風呂から上がってぼやっとベッドの上で寝込んでいた私は、ぐぅっと手を伸ばして携帯を取った。
遥香とは同じ中学校で、同じバスケットボール部だった。一緒に三年間頑張って最後の大会では、県大会まで行けた。一回戦敗退だったけど。
普段はとても控え目で大人しい性格だったけど、部活ではスイッチが切り替わったかの様に積極的に頑張って、私も遥香もレギュラーで共に競い合い頑張っていた。
高校へ進学したら私が当たり前の様にバスケ部へ入部する事を伝えると、遥香は私から目を逸らし、小さな声で申し訳なさそうな様子でバスケ部には入らないと言った。
「私は、真由の様に上手くないから……」
私から見て遥香はとても上手く、チームメイトの中でも一番に私と息があったプレーが出来ていたと思っていた。遥香からバスケを続けないと聞いた時、私はショックだった。同じ高校でまた一緒にプレー出来るんだって、信じていたから。
高校へ進学した後、遥香は本当にバスケを辞めてしまった。
それから、遥香とは距離が出来た様な気がする。
廊下で会えば話すけど、中学生の頃の様にお互いのクラスを行き来する様な事はなくなった。
「真由に相談があるんだけど、明日、一緒にお昼ご飯食べない」
遥香からのメッセージ。
そう言えば、高校に入って遥香とお昼ご飯一緒に食べた事なかったな……
私は良いよと返した。その後、時間と場所の指定と何気ない近況報告みたいな内容のメッセージを交わし遥香とのやり取りを終えた。
なんだろう、相談って。
遥香は大人しいからクラスに馴染めてないとか、まさか、いじめられてるとか……
私の頭の中で、遥香のメッセージにあった相談したい事の内容が、勝手にどんどん風船の様に膨らんでいく。
まぁ、ここでやきもきしても仕方がないか、明日になれば遥香から直接聞けるんだし。
私は枕に顔を埋めて、大きなため息をひとつついた。
「行ってきます」
私は玄関からリビングにいるお母さんへ大きな声で声を掛け家を出た。
家から学校までバスで20分。ラッシュアワーなんて縁もなく、必ず座って通学出来る。でも、お洒落なコーヒーショップも、映画館も、市の中心部まで行かなきゃ、この町にはない。大きくもなく、小さくもない、中途半端な地方都市の外れにある町。
学校前のバス停で降りて、校門までは徒歩二分。
携帯を触る暇なく、学校に着いてしまう。
「おーい、くりはらぁー」
私は呼ばれた方に顔を向けると、クラスメイトの
私も里奈に向かって笑顔で手を振り返す。里奈は信号が変わったのを確認すると、ぱたぱたと急いで横断歩道を走ってくる。
里奈は小柄で、見た目は中学生くらいに見える。本人は、その事をとても気にしているみたいだけど。
「おはよっ、栗原」
「おはよう、里奈」
私たちは他愛のない会話を交わしながら、校門をくぐり、校舎へ向かって歩いていた。
すると、私たちの少し前に、ポケットに手を入れ下を向きながら歩いている男子を里奈が見つけた。
里奈は前を歩くその男子を指さす。私もその里奈の指さす方へと視線を向けた。
「あれ、同じクラスの男子じゃない。ほら、あの窓際の席の」
「そだね、のろのろ歩いてる」
その男子の身長は平均より高く体格も良い。多分、何かのスポーツをしてきたんだろうと思う。でも、顔はよく見た事がない。長く伸びた髪はいつもぼさぼさで、顔の半分以上が隠れているからだ。
「のろのろだから、追い越しちゃうね」
里奈は私にしか聞こえないくらいで囁きにかっと笑うと、その男子を追い越した里奈が振り返り声を掛けた。
「おはよっ」
「お、おはよう」
不意に声を掛けられたその男子は一瞬ビクッとしたが、こちらに顔を向けるとおずおずと片手をあげ挨拶を返してくれた。
あいつは休み時間をいつも一人で過ごしている。
挨拶などは返してくれるけど、休み時間とかにクラスメイトと喋っているところは見た事がない。
私と里奈は上靴に履き替え、寄り道がてらに自販機でジュースを買い教室に入ると、クラスメイトたちと一通りの挨拶を交わした後、窓際の席に目を向けた。
あいつはやっぱりイヤホンで音楽を聴きながら、窓の外をじっと眺めている。
私は席につきカバンを置くと直ぐに里奈たちに話しかけられ、他愛のない話しをしているうちにあいつの事なんて、すっかり頭から離れてしまっていた。
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