第3話 今日も少食

男性の前で、少食をアピールして二段活用で可愛さをアピールする女性がいるが、私は違う。



私は、赤ん坊の時からの筋金入りの少食だ。



基礎体力の低い私は、赤ん坊の時、お目汚しの話しになるが離乳食を食べては、そのまま、マレーシアにある虎のごとく、そのままリバースしていたらしい。



母親が慌てて顔を見ても、無表情でけろっとしていたらしい。



私はどんだけ無表情人生の歴が長いのだ。



苦手な夏は、アイスしか食べず栄養を心配した母親がご近所の先輩お母さんに相談すると困った顔をしてこう言ったそうだ。



「◯◯ちゃんは、足がしっかりしてるから大丈夫よ」


どんな励まし方だ。


その先輩お母さんでも困ったらしく、唯一、しっかり育った祖母譲りの足を褒めたらしいが、母親は、解せなかたったらしい。



私もだ、レディーに足がしっかりなんて失礼だ。30年後でも、ぷんぷん怒りたい。


だが、農家育ちの祖母ゆえ、事実だ。



なんて、話は可愛いものだった。



少食の私の地獄は、幼稚園から始まった。



その名も「お弁当地獄」


幼い時から、本が好きで魔女や幽霊は信じるくせに幼稚園の午前の歌、粘土遊び、かけっこなどの業務を淡々とこなした後に待つのが「お弁当地獄」




担任の先生は、まだ新人でマニュアル通りにしか動けなかった。



ゆえに、成長期の子供=食べるの大好き。が刷り込まれていたらしい。



しかし、クラスの中にイレギュラーがいた。そう、私だ。



まだ臨機応変に対応できない担任VS少食幼稚園児を想像して欲しい。



力も権力も胃袋も負けているのだ。勝ち目はない。



お弁当の時間になると、クラスメートは、ワイワイ騒ぎ、お母さんや保護者が作ったお弁当の箱のふたを開ける。



数時間お弁当箱に閉じ込められていた、おかずとご飯が解放されたように我が物顔で、教室中に匂いを放つ。



少食の私は、その匂いだけで妊娠初期の妊婦のつわりのように「うっ」とくる。



独身で未婚なので、そんな経験はないが、とにかく、「うっ」なのだ。



お弁当だあ!とはしゃぐ友達達を、冷めた目で見つつ、可愛いキャラクターのバンドで留められたお弁当箱をにらみつける。



「何で、人類には食と言う文化があるのだろうか」

幼稚園児なので、そこまでの言語化は出来なかったが、毎日思っていた。


いただきますと言って、ガツガツお弁当を食べる友達の中で、ちびちび食べる私。



大奥などで、姫様が毒味をされた食事を一口ずつ食べるのを想像して頂きたい。そもそも、私は姫様ではなく、幼稚園児だが。



周りの友達が、食べ終わった頃、私のお弁当箱の中は、8割が残っている。


本気で、無理。



なぜか私だけ食べたお弁当箱を担任に見せに行くというノルマを課せられた。


友達達は、すでに外に出て遊んでいる。私も幼稚園児なのでノルマから解放されて遊びたい。



担任と私だけが残った教室は、残業の職場より静かだ。



おずおずとお弁当箱を担任に、奉納すると新米の担任の目が光る。


「これと、これと、これだけ食べようね♪」

ノルマが、増えた。

ここは、ブラック企業ならぬ、ブラック幼稚園か。



疲れきったサラリーマンのように、背中を丸め席につく。指定されたおかずを食べるも半分でギブアップ。



そこで、幼稚園児ながから考えた幼稚な策を練りだした。



お箸で、出きるだけおかずをお弁当箱のすみに寄せ、減ったように見せる。



大人になった今、このけなげな努力を認めて欲しいとろだが、マニュアル通りの担任は、マニュアル通りにしか悲しいかな、動けない。



ノルマを課せられては、担任の席と自分の席で往復するだけで、昼休みが終わってしまう。



あげく、戻ってきた友達達にマニュアル先生は、◯◯ちゃんを応援しよう!とまで煽るので、私より純粋な友達が、私を囲み励ます。



まさに「お弁当地獄」



いやいや、もう全力で頑張ってますけど?と半泣きでお弁当を食べた。



軍隊式の教育でお馴染みの父親からも、指定されたご飯を食べ終わらない限り、食事は終わらない業務を課せられた。



小学生に上がり、男性の担任教師が褒めて教育する方針で、とにかく私が少しでも給食を食べると、褒めてくれた。



そこは子供だったらしく、私は少し食べる喜びを知る。



マニュアル先生と軍隊式の父親から学んだ事は、マニュアルや根性で、人に厳しくすれば萎縮して持っている力すら発揮できなくなる。



褒めたら人は、長所も調子も伸びる。



だが、大人になった今日も私は順調に少食だ。






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