第2話 今日も150センチ以下

子供の頃から、少食だったせいか遺伝か分からないが、大人になった今でも身長が150センチ以下だ。



正解に言えば、149センチ。



よく周囲からは、女の子だから小さい方が可愛いじゃないと言われるが、それは150センチ以下の身長を味わってから言ってみて欲しい。



意外と、いや、かなり身長では苦労してきた人生だ。



よく、高い所にあるものが取れない~と言って男性に取ってもらう女子力高め女性なら楽しい人生だったろう。



しかし、私の父親は軍隊並みになぜか私を厳しくしつけ、母親はイギリスかどこかの寮長並みに厳しく、人を頼るな、が信条に育った私は、まず「取れない~」などと言えない。



男性がいようが、黙々と脚立を持ってきて身長をカバーしながら、自力で取りたいものを取る。



男性目線から考えても、我ながら可愛くないと思う。



だが、子供の時から身に付いた、他人を頼る事なかれ、世間は誰も助けてくれない、自力で何とかしろの父親の信条が、なかなか取れない。



私は、祖父の時代の軍人か。




150センチ以下は、可愛いなどと言われるがそのオプションを取ってしまえば、苦労しかない。



満員電車で、サラリーマンの背中がちょうど頭で右を向こうが左を向こうが、息が出来ずに窒息しかけた事がある。



好きな本屋や図書館でも、好きな本があっても指先までしか届かず、本の下をカタカタ揺らしながら落として取る技まで身につけてしまった。




学校では、望んでもいないのに常に列の1番前。朝会で校長や先生が偉そうに説教をするが、視線も話しも全て私の頭の上を通過していく。



頑張って1番前にいるのだから、視線くらい合わせてもらいたいものだ。いや、好きなアーティストのライブでもあるまいし、合わせなくて良い、どっちだ。




中学生の時、クラスで私よりも10センチも背の高い女の子がいた。私と話すたびに、身長が低くて良いね、可愛く見られる、と言ってきた。



いやいや、私はあなたの身長が欲しいと言いたかったが、多感な時期の女子中学生、下手に何かを言って大ケガを負うのは、こちらだ。



我ながら、こまっしゃくれた子供で可愛くないと思う。



「私は、◯◯さんくらい背が高い方がいい。スレンダーに見えるし」

けっこう本音だった。



大人になってからも、顔が童顔とのワンセットなため、よく年下の子から同じ年だと間違われ、その上、人見知りな私は話を合わせていた。



いいさ、相手の思い込みは自由だ。



と、思いつつ話が合わなくなってくるのでやはり苦痛になってくるのが現実なので、悲しくなる。



好きな映画でもそうだ。

映画館に行き、出来るだけ前の誰もいない席につく。



映画開始ギリギリで、目の前に男性でも座られたらアウトだ。2時間、男性の頭の半分を鑑賞する事になる。


人の後頭部を2時間鑑賞しても、楽しくない。




身長を女子力でカバー出来る女性にとっては、150センチ以下は世間では武器になるが、他人頼るなかれ、自力で何とかしろの父親の信条で生きてきた私にとっては、デメリットしかない。



一つメリットがあるとしたら、低い場所にあるものを人より多く取れる事だ。



150センチ以下の身長の苦難は、今日も進行中だ。





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