第3話

株式会社キューブ。


日本の地方大学のプログラミングサークルがサークル活動の一環としてPC専用のゲームプログラムを作成しサークル活動費捻出の為それらの販売を始めた。


思いの外反響があり、サークルメンバーの内、就職が決まっていなかった4回生3名が半端嫌気のさしていた就職活動を避ける言い訳として起業したのが始まりだった。


しかし起業はしたもののPCのゲームプログラムの販売やプログラムのバグ修正の請負などの受注を主軸にと考えていたが、当時PCが高価だった事もあり普及率が低くPC関連の仕事の需要は少なく、更に大手企業に独占されており、仕事がない。


起業してすぐに躓く事となり途方に暮れたのも束の間、ある企業より家庭向けのテレビゲーム専用機が大々的に発売されることがニュースとなり世間を騒がせた。


これだ!と思い立った3人は専用機のゲームソフト作成に取り掛かる。


人手も資金も限られる中手っ取り早く開発するには大学のサークル時代に元々販売していた中でも特に反響の良かったPCのゲームプログラムをアレンジし肉付けして家庭用ゲーム機用に作り替える事だった。


PC向けのゲームがアクションやパズルが主流だった事もあり他社が発売するゲームソフトも軒並みアクションゲームやパズルゲームが多い中、元々大学のサークルで作成していたゲームプログラムはロールプレイングだった為、完成したソフトは他社のものと比べ目新しく人気を博した。


そのゲームこそがスクウェアクエストであり、ゲーム機の普及が全世界へと広がるのに併せスクウェアクエストは爆発的なヒットとなり株式会社キューブは起業して僅か数年で日本を代表するゲームソフトメーカーとなった。


それからも新しく販売するゲームソフトはコンスタントにヒットし、会社は成長を続け現在では従業員2000名を超える大企業となった。


しかしここ数年は他業種からの新規参入が増え競合他社との競争は激化し苦戦を強いられていた。




都内某所に聳え立つオフィスビル。


その一角にある株式会社キューブの会議室にはピリついた空気が立ち込めていた。


長机が並べられ椅子に座る数名は全員20代前半の顔ぶれだが皆、表情は暗い。


彼らの視線の先にはこの部屋唯一の30代後半ぐらいに見受けられる男に向いていた。


髪はボサボサで無精髭を生やしまるで清潔感が足りていないその男の表情は不機嫌そのもので眼鏡の奥の鋭い眼光には怒りがこもっていて、明らかにこの男が原因でこの部屋の空気がピリついているのがわかる。


「全員の企画書、読ませてもらった...。それでさぁ、お前等全員仕事なめてんのかっ!あぁ!?どいつもこいつも適当な仕事しやがって!おいっ!吉田っ!!!」


「は、はい!」


立ち上がった男、吉田を睨みつけた。


「お前、これなんだ?数字がめちゃくちゃじゃねーか!開発のプロセスが頭に入ってないからこんな数字になるんだろうが!アイデア以前の問題なんだよ!田中!」


「は、はいっ!」


間髪いれずに名前を呼ばれ立ち上がった女、田中を睨みつけた。


「お前なんだよこのゴリラが街を破壊するって!昔のゲームのパクリじゃねーか!えっ?何?知らない?開発に携わるんなら知っとけ!勉強不足なんだよ!山本!」


「は、はい!」


「お前は---」


山本と呼ばれる男を怒鳴りつけようとしたときドアがノックされ男が部屋に入ってきた。


「お取り込み中、すいません。神谷部長、ちょっといいですか?」


「ん?あぁ。分かった。お前ら!全員やり直しだ!明日作り直して提出しろ!」


「「「「「「は、はい!」」」」」」


神谷はいい放ち、男と部屋を後にした。

  




二人はフロアの奥にある休憩室に来ていた。


「で、なんだよ。会議中に連れ出して」


「お前さぁ、あれパワハラ。皆んな顔青くしてたじゃないか。あんなんじゃ最近の若い子はついてこないぞ。お前がこれ以上嫌われる前に連れ出してやったんだぞ?感謝しろよ。」


「うるせーなー。パワハラ上等。ケツ叩かれねーとまともに仕事できねーんだよ、あいつ等は。大体俺らの時はもっと厳しかっただろうが」


「はい、出たそれ。俺らの時は〜ってやつ。嫌われる上司の言動上位にランクインされてるから」


「あー、はいはい。てか薮内。お前こそこんなとこで油売ってないで仕事しろよ。」


「ん?俺?いやー、広報は暇でさぁー。暇つぶしに同期一番の出世頭の顔でも見ようかなって思ってさぁ」


「お前も相変わらずだな」


神谷 雄一と薮内 直樹は15年前、株式会社キューブに同期入社してからの仲だった。配属された部署は異なるが新人研修の際、顔を合わせて以来の付き合いだった。


神谷はソフト開発部に配属となり数年前に自身が企画したゲームソフトが大ヒット商品となりその業績を買われ若くしてソフト開発部の部長に就任していた。


一方、薮内は広報部として主に営業面を担当し本人のコミュニケーション能力の高さから順調に結果を残しこちらも若くして課長となり、次期広報部部長の筆頭候補だった。




「さてと、ゆっくり休憩出来たし、そろそろ広報部に戻るわ。」


「おう、またな。」


「...って、そうだ。肝心な事忘れてた。お前に会いに来たのは70周年の記念イベントの件だったんだ」


「それってスクエスの事か?」


「そうそう。多分スクウェアクエストなんだけどさ、広報の問い合わせフォームに英語で問い合わせ来ててさぁ。お前ビジネス英語いけるだろ?広報部の英語担当の子がこの前産休に入っちゃって困っててさ。」


「はぁ?他にも英語わかるやついるだろ。この前お前が押してた新人の娘。なんか凄く可愛いしバイリンガルでどうこう言ってたじゃないか。その娘にさせろよ。問い合わせの対応は広報部の受け持ちだろが」


「いや、まぁ、その、なんだ。今ちょっとその娘とは気まずいというか何というか」


「...お前また手出したのかよ。いい年してほんと相変わらずだよな。」


「まぁそれほどでもないんだけどな」


「いや、褒めてねーから」


「まぁ、頼むよ。あとで開発部に転送しとくから。それとお前その髭と髪どうにかしろよ。そんなんじゃ俺みたいにモテないぞ」


「ったく、うるせーよ。分かったよ。じゃあな。」

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