第48話 purple haze

nextone


その次の日、僕は

かすみの言うように、アルバイトに行くことにした。

出かけてるうちにかすみがまた居なくなってしまうかもしれない、なんて

思わないでもなかったけど、でも

いつまでもそのまま、と言う訳にもいかないな、と

思った。

新しい出発に相応しいと思うオートバイは

やっぱり2ストロークのバイクだろう、と

僕は、ガレージの奥にカバーを掛けておいた

RZ350を選んだ。


1982年、ヤマハ発動機が

なんとしても2ストロークバイクのルネサンスを、と

考えて

敢えて、乗りにくいレーサーっぽいバイクにした。

それが、却って腕自慢のライダーの心を揺さぶり

爆発的な人気となったバイクである。


今に続く、レーサー・レプリカ路線の元祖とも言える

オートバイであるが

実は、ヤマハのレーサーを規範とするバイク作りは

初期から、2ストロークバイクは皆、そうであるのだ。

時代が後からついてきた、とでも言おうか。


そういう勢いのあるオートバイ、再出発に相応しいと

僕は思う。


ガソリンをキャブレターに落とし、軽いキックを下ろすと呆気なくぱらぱら、とエンジンは始動。

この軽快さがいいのだと思う。


それでいて、すごいパワーを持っている。


僕は、ひょい、とバイクに跨り

スタンドを外した。


坂道を、下りながら

ぐい、と無造作にアクセルを開くと

前輪を軽々と持ち上げて、白いRZ350は

青い煙を残して。

現在を過去に置き去った。


そんな風に、簡単に未来へ飛べればいいのにな、と

思う。


ついでに、次元も飛び越えて。


坂道を駆け下りながら、僕は

とりとめない夢想をしていた。


フラワー・ショップの店長も

かすみ、ふたばと同じ世界からの...


フォーリナー、だった。


昔はもっといたらしいけど。



そんな事を考えながら、いつのまにか

フラワー・ショップのそばに着いたから

エンジンを止め、惰性でクールダウン。

ドライヴ・チェーンの音が涼しげ。



ふと、気づくと

白いシトローエンDSがふわり、とパーク。

猫のようにしなやかなサスペンションが

揺れもせずに。

ひなたぼっこするみたいにゆっくり車高を落とす。


そういえば、どことなくこのRZ350に似ているサスペンションだ、と僕は思った。

しなやかで、でもしっかりとしていて。

フラワー・ショップの店長のようだとも思う。


不思議に、よく似合っているな、と

最初から思っていた。

古い車のはずなのに新車のようなシトローエンDSのことも。


あの車も、異次元からの物体だと思うと

ひょっとして、車に見えるだけで

本当は猫なのではないか、などと空想すると楽しくなってきた(笑)。



ドアが開き、涼やかな声で彼女が、どうしたの、と

微笑んでいる。


はい、と

僕も笑顔で。

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