第20話 feeling

「あれから、バイトには行ってないんだ」と

僕はそう告げた。




「そうなのね...店長さん、ひとりで大変かしら」と

かすみは、ふと思い出すように。


丘を渡る風が、長い髪をふわり、と踊らせた。




「でもさ、いつも暇だもの、あの店。

どうして潰れないんだろって思ってた。」と本音を言うと


かすみは、ころころと笑った。

ひどーい、なんて言いながら。



「でもさぁ、花たちが言葉を交わすって

メルヘンの世界みたいだけど、華やかで派手な花と

地味で素朴な花とかでさ...やっぱ美の競い合いとかある?」



と、僕はいかにも現世、3次元的な想像をした。



かすみは、柔らかに微笑みながら

「それは、こちらの世界の感覚ね。私たちには

競って咲く、みたいな感覚はないし、美のランク

なんて決めようがないもの。」





それはそうだ、と思う。

美しさに上下なんかないよ。


僕はそう思い「そうだよね。one and only。

みんな尊い命だもの。美しいって価値観だって

曖昧だよね。」




そう言うと、かすみはにっこりと笑い

「それで、私を選んだの?」とちょっとお茶目に微笑んだ。



僕は、嬉しくなって

「いや、選んだって言うよりも選ばれたって感じ」と

ちょっと明るくおどけて。




まあ、本当のところは

かすみ草のように可憐で控えめなイメージの

女の子が好きではあった。


だから、そのフィーリングを

センシティヴなかすみが感じ取ったのだろう。



相性ってそんなものだと僕は思った。



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