ようこそ!イケオジカフェへ!
ゆーかり
月曜日 開店準備
イケてるおじ様。略して『イケオジ』
インターネットで検索をかけると「お洒落で洗練された四十代〜六十代の男性のことを指す。」と、出てくるがその定義は人それぞれ異なる為未だ曖昧であるとわたし、
例えば十代の女の子からみたおじ様の年齢と三十代の女性からみたおじ様の年齢の下限〜上限の範囲も違ってくるだろうし、ワイルドなおじ様が好きな人、優しくて誠実なおじ様が好きな人、一言でイケオジと言っても好みは十人十色。こういった存在に定義は付けられるのだろうか。
敢えて言わせて頂きたい!
「定義なんてものに納めなくていいと!
「は、い。有難う御座います?」
今わたしは街中で見つけたイケオジの前に立っている。そして鞄から名刺を取り出し両手を添えて軽くお辞儀をした。
「イケオジカフェ
***
「で、ふられちゃったんだ。」
「うん。顔を上げた時には逃げられた後だった。」
カウンターを挟みわたしと会話をしているのは
マドカ君はわたしの親戚で、年齢は41歳。カフェにはほぼ毎日出勤してくれているが、本職は別にあるらしい。何をしてるのかはわたしにもわからないけど…。ミステリアスなところも美味しいとわたしは思っている。
「紫さんまた熱く語りすぎたんじゃないですか?」
マドカ君とは違う声に話しかけられ、振り向くとフロア担当のヒロタカさんが入口に立っていた。
「紫さん、マドカさんお早う御座います。乗り継ぎが上手くいって早く着いてしまいました。着替えてきます。」
ヒロタカさんにマドカ君とわたしも挨拶を返すと彼は更衣室へと消えていった。
ヒロタカさんも本職は別にあって、月曜日のみの出勤だがオープンからクローズまで働いてくれる。年齢は43歳。わたしが街中でスカウトをして成功した数少ない一人だ。黒髪短髪で細身だけどしっかりと筋肉はついている体型に惚れて声をかけたが、話しかけてみるとこれまた内面も素晴らしかった。
語りつくしたいけど、接客を見て頂ければわかることなのでここでは敢えて伏せておこうと思う。それにしても今日のヒロタカさんの格好もお洒落だった。白のインナーにブルーグリーンのサマーカーディガンが優しい顔立ちによく似合っていた。そして黒のスキニーの裾をロールアップしているのがポイント高い!公園デートもいいし、それこそカフェデートにももってこい!今度私服DAYでも作ろうかな。お客様も絶対喜んでくれると思うのだけど、、、
「おーい、紫ちゃーん。」
「!…いけない。またマイワールドに陥っていた。」
マドカ君に呼ばれて妄想の中から現実に帰還した。
これから仕事なんだから気を引き締めていかなければ。
カッと効果音がつきそうな勢いで目を見開き気合を入れ直す。
「よし。開店準備しようか!」
少しシワがよってしまったエプロンをただし、わたしは厨房へと足を踏み入れた。
***
「はい、これ使ってね。」
そう言ってマドカ君が渡してくれたのは未開封の目薬だった。
はてなマークを浮かべていると落ちてきてしまった顔周りの髪をマドカ君が耳にかけてくれた。
「さっき目を見開いていたでしょ。コンタクトが乾いて違和感があるんじゃないかなって。」
ああ、我が親戚ながらなんというイケオジなのだろうか。
今日もわたしは生きていけます。
「有難う御座います。」
色々な意味を含め発したわたしの言葉に、今度はマドカ君がはてなマークを浮かべていた。
「下準備はもう完了だね!フロアの方はどうですか?」
カウンター越しにフロアの準備をしているヒロタカさんに話しかける。
「あと観葉植物に水をやるだけで終わりです。」
ヒロタカさんは右手にもった霧吹きをこちらへ見せ、ニコリと微笑んだ。
「お願い致します!わたし外回りも確認してくるね。」
マドカ君に声をかけ、裏口から外に出ると春の暖かい風がわたしを包んでくれた。
「アイスコーヒー少し多めに抽出しておこう。」
ぽろりと零した言葉を拾ってくれたマドカ君から了解という言葉が返ってきた。
さすがの言葉を胸に噛み締め、お店の正面へと歩いていく。
深緑の瓦屋根は異常なし。
白色の外壁はどこも汚れていない。
入り口前にある焦げ茶のウッドデッキには塵一つ落ちていない。
自然とにやけてくる顔を引き締め、わたしは大きな声で
「イケオジカフェ縁、開店しまーす!!」
と叫んだ。
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