第2話 Post officer

夕べ、よく寝てなかっためぐは

不覚、お風呂で眠ってしまったので

(笑)



気がつくと、どやどやと


お風呂に入ってくる、女の子たちの声。


壁の時計を見ると、まだ10時くらい。


しばらく、ベッドで眠らせてもらって....

どこか、遠くにオルゴールが聞こえた。



その曲は、ショパン。


練習曲10-3、別れの曲、と

映画につかわれて有名になった曲だった。


ポーランド生まれのフレデリック・ショパン。


病弱だった彼が、祖国への別れを描いた曲、なんて.....。


音楽の授業で習ったっけ。



めぐは、眠りながら、なんとなく聞いていた。



ショパンは、魂をポーランドに帰してほしいと言ったんだっけ。




その、どこかノスタルジックなメロディは、めぐを空想に誘う。




魔法使いの魂。帰るところはどこにあるんだろ.......。






ふと、気づくと


めぐのベッドのそばに、Naomi。


緑の制服と、インクの匂い。


郵便屋さんの匂いだ...。と、めぐは

なんとなく、家に配達に来る郵便屋さんの事を

憧れて見ていた幼い頃、を

思い出したり。




なんとなく、いいね。



世のため、人のため。


そういう、使命感に浸って働くって。



正義の味方、みたいだもん。(w)。







「めぐ」と、Naomiは微笑みながら。




めぐは、なんとなく幸せに目覚めた。「あー、おはよ、Naomi。」





「お風呂でのぼせたの?大丈夫?」と、Naomiは笑ってて。




優しい友達の有難さを思う、めぐだった。



「仕事いいの?」と返すと



Naomiは「もう終わり」と。



よく見ると、窓の外は

もう、お日さまが傾いていて。




「夕方かー。」と、めぐは、のんびり言う。




全然変わってない、と、Naomiは言うけれど



めぐは、3年前そのままが来てるから当然(笑)。



タイムスリップ、なんて言っても

Naomiが実感できる訳もない。




「じゃ、起きて、めぐ。リサんとこ行こうよ。」と、Naomiは


やっぱり友達思いのいい子。



ふつう、ハイスクール卒業して3年も経てば

ボーイフレンドとかできちゃって。


友達同士の付き合いって、一時希薄になったりするけど.....。



と、めぐは思ったりする。





「そういえば、郵便局って24時間営業だったんだっけ。」早番かなにかかな、と


別に気にとめずに、めぐは、お風呂から出ようとして......。




めまいがして、立てなかった。

露天風呂で眠って、のぼせたらしい.......。






次に目が覚めると、めぐの目前には

白い天井が。





「お気づきですか?」と

優しい言葉を掛けられて、どうやら、めぐは

薬品の臭いがする空間、ベッドに寝ていると分かった。




下着を付けずに、シーツに包まっているのは変な感じ。



なんとなく、落ちつかない。







「ここは、どこですか?」めぐは、そんな言葉を空間に放つと



さっきの声の主は「郵便局の医務室です」と


答えた。




郵便局って

、お医者さんもあるのね(笑)。




本当に住めるね、と

めぐは微笑んで、起き上がろうとしたけれど


ちょっと、ふらふら。





「まだ、眠っていてください」と言った

その言葉の主は、


白衣、短い髪、そっけない服装、でも


清潔感のある雰囲気、で




ああ、女医さんかな、と

めぐは思う。




男の先生でなくてよかった、と


めぐは、お風呂から運ばれる間に



オールヌードを見られちゃったのかしら(笑)と



恥ずかしくなった。



でも、まあ、思ってもしかたないけど。





コインランドリーに服を入れといて、

洗ってる間、お風呂に入ってて。




そう、思って

気づくと

めぐの服は「郵便局の年金保険」なんて書かれた紙袋に入って。

枕元にあった。



下着も(笑)。




男の人が取ったのかしら......(笑)


なんて、


それを思うと、また、めぐは恥ずかしくなって。

女医さんに、「あの、あたしの服....。」と


言うと、女医さんは



「ああ、女子バレー部がね、お風呂で倒れたあなたをバスタオルでくるんで、担いで来てくれて。


その時に、あなたの服を


持ってきてくれたの。





女子バレー。



めぐは、朧げな記憶を紐解くと



そういえば、お風呂にいっぱい女の子たちが

来たような気がする。



あの子たちが運んでくれたの。



なんだか、申し訳ないような

気がしてしまった。

でも、考えて見ると

女湯だから、男の人が来る訳もない(笑)






technology and biology

でも、あたしたちは違う。


と、めぐは信じている。



ぞれぞれに、恋人ができたって

ずっと、友達だもん。




男の子との付き合いとは違って

一生、分かち合える幸せ、

そんな、気持ちでめぐはいた。


だから、リサの事も気になる。



Naomiは、気丈なようだけれども


本当は、困ってるんじゃないかな?


なんて、めぐは気遣かったりもする。


お風呂でのぼせるめぐだけど(笑)



でも、友達を思う気持ちは、強い。





それも、小さな社会。


世のため人のため。








実際、女の子同士のコミュニティーは


男の子のそれとは違ってる。










YAMAHA TR1

Naomiは、ロッカールームで着替えて、シャワー代わりに

地下の温泉に入ってくると言う。



「めぐも来る?」と

誘われたけど




「あたしはいいわ」と

のぼせためぐは、断る。



「そうよね」と


Naomiは笑い、ちょっと待ってて、と


小走りに、駆けてゆく。



その、後ろ姿は

学生の頃と、何も変わらない。



めぐの方は、まるっきり学生のまんま

なんだけど。






Naomiは、さっぱりといた顔で


5分くらいで戻ってきた。



「早い!」とめぐは驚く。




Naomiはにっこり笑う。


「めぐはのんびりさんだから」と



その笑顔には、若干疲れが見える。



「疲れてんじゃない?」と



めぐが言うと




おばさんみたいに言わないでよ、と

Naomiは笑って、郵便局の地下駐車場に向かって、階段を下りる。



めぐも、付いていくと



重厚な石段の果て、なーんとなく埃っぽいのは


手紙や小包が、一杯出入りするからだろうか。


それと、インクの匂い。



みんなのために、働く人達の

人間の息吹を感じるような、そんな地下の突き当たりにロッカールーム。




左手に、大浴場。




まだ、3時半くらいだから


配達員は帰って来ない。




「夜にはね、男湯も一杯よ、覗く?」と

Naomiは、いたずらっぽく笑う。


コツコツと、靴音がびびきそうな地下パーキングには

いっぱいの自転車、配達のバイク。


それと、小さなトラック。




壁極には、長靴、

それと、小部屋があって

そこには、レインコートが沢山吊されていて。

乾燥機。






配達って、雨の日もあるからなんだろう。



それで、お風呂もあるんだな。





そういう人々の苦労があって


手紙が運ばれる。




気にしなければ、気にならない。




そんなものだけど、いろんな人々の

おかげで

世の中が動いていると

実感できるひとこま。




電車もそうだけど。



と、めぐは、リサの事を思い出した。




電車を運転するのは

おじいちゃんへの贖罪の思い?




そんな、リサは


でも、世の中のために。


早起きしたり、夜遅くまで働いたり。




素敵だなぁ、と

感心しているめぐの前を歩くNaomiは


一台のオートバイの前で歩みを止めた。





銀色に輝くオートバイ。

それは、Vの形にエンジンがそびえ

まっすぐの排気管は、メタリック。




「かっこいー」と、めぐは手をはたいた。




そのオートバイは、銀色のガソリンタンクが

鈍く光る、シックなスタイル。


黒いシート、大きなヘッドライトは丸く。



Naomiは、エンジンを掛ける。


低い音が、地下のパーキング全体を揺するように響く。



「リサんとこ、いこ?」Naomiは、にっこり。


白いヘルメット、普段着の可愛らしい服なので

かえってそれが、個性的に見える。




めぐは、オートバイのエンブレムを見た。


金色に光るそれは、YAMAHA、と読め

シートの下にあるサイドカバーにはTR1.と書かれていた。



「鳥?」とめぐは読んだので


エンジンの響きに混じり、Naomiは笑う。



「あはは!ティーアールワン、よ。」と。



Naomiは、オートバイの左に立って、センタースタンドを外す。


柔らかいサスペンションは、ふんわり、と

猫の足のようにオートバイを沈ませた。



「乗って」と、Naomiが言うので

めぐは、オートバイの後ろに乗る。



エンジンの排気音は断続的に、低い太鼓のようだ。



Naomiの背中につかまる。



ライダー、ナオミは

クラッチレバーを握り、ギアを1速に入れた。



そのままクラッチレバーを離し、アクセルを捻る。


滑り易くてつるつるの地下駐車場のコンクリートの上で、TR1は

後輪を回転させた。


前には進んでいないので、斜めに後輪が流れながら。


アクセルを少し戻し、ライダー・ナオミは

カウンター・ハンドルを切りながら

前に進んだ。




朝、見かけた郵便配達の青年たちが、日焼けの顔で

口笛を鳴らす。




TR1は、斜めに滑りながら

地上へのスロープを昇る。



暗い地下から地上へ昇ると、目映くて


天に昇るってこんな気持かな、なんて

めぐは思った。






風・夢・オートバイ

地下駐車場から、YAMAHA TR1は

ふたりを乗せて、飛び出る。


軽快な車体と、エンジンの力強い回転力は

オートバイの前輪を、軽く持ち上げるように

舞い上げる。


大きなタイヤは、少し空を切る。

細身で清々しいホイール。


タイヤは、MADE IN FRENCH MICHELIN A48 90/90 - 19と

黄色い文字で浮き出し彫刻がなされていて。


からから、と空回りすると


アルミニウム・ダイキャストのホイール、切削加工されている端面が

光を浴びて、きらきらと虹色に彩りを添えて。



オートバイは美しい。

機能的なものは、どんなものでも美しいが

それは、フラクタル・ジオメトリ理論と言う幾何学上の概念で

証明できている。



地上にある全てのものは、このジオメトリで証明できるのだ。


音響工学で言えば、i/fゆらぎ理論がそれに当たるが

それも、幾何学で言うとフラクタルである。






オートバイは、宙に飛び出るように

地上で跳ねる。


後ろのタイヤは、やわらかい

猫の足のようなサスペンションのせいで

十分に地面に接地している。


でも、ばねの伸び代を越えて、一瞬

宙に舞うリア・タイヤ。


エンジンが空転しないよう、ライダー・ナオミは

アクセルを少し戻す。


リアタイヤは、着地する瞬間に

その回転差で、路面との間で摩擦し

飛行機が着陸するときのような音を放つ。



後ろに乗っているめぐは


エンジンの力強い鼓動を、体全体で感じて。



「オートバイって楽しい」そう思う。




それで、あの、岬までの旅をした

モペッド、リトル・ホンダの事を思い出し



同時に、ルーフィのことも思い出してしまう。




楽しい思い出、だったけど....。



あたしひとりを愛してほしい。



そんな希みを、叶えられそうにないから

あきらめた人。




お気に入りのバンダナに、ついた染みのように


バンダナがある限り、その染みも残る。



それは、記憶。



でも、めぐは魔法使いだから



染みを消す事だってできる。





記憶を組み替えるのは、夢。


夢を見ることで、記憶は生まれ変わる。






めぐは、魔法使いだから


夢を自由に見る技術も持っている。





そう、その魔法で

今、親友リサを助けに行くのだ。



オートバイ、YAMAHA TR1と


もうひとりの親友、Naomiと。


夢の世界へ、いざ!

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