第340話 宮地駅へ

「仕業35、137列車、日光、出発します」と。

福岡貨物ターミナル。機関区。


区長が「ご苦労さん」と、にっこり。


それほど厳しいムードではないのは、顔なじみばかりの機関区、と言う事もある。


ダイアグラムの、137列車の始点に、印鑑を押す。


旧来のしきたりである。


携行品一式のあるアタッシュケース。

鍵、カンテラ、手旗。

変わったものはそのくらい。


あとは、笛、懐中時計くらい。


面白いもので、機関車の操作盤の真ん中に、時計を入れる凹みがある。



今の機関車はデジタルクロックがあるし、トレイン・ナビもあるのだが


この時計あわせは、朝、出区の時に行う。


未だ、ゼンマイ時計である。



意外と正確なのだが。





顔なじみの機関士が「気をつけてな」と、にっこり。



お兄ちゃんもにっこり。



携行品と、自分のバッグを持って。


ちょっと暗い廊下を歩いて、1階に下りる。


外が眩しいくらい。



線路伝いに歩き、留置してある機関車、EF81-137を探す。


新幹線の線路に近い留置線に、あった。


赤、と言うより桃色に見える塗装は、やや色褪せている。

ところどころ、雨の通り道に水のあとがついていて。


小さめのパンタグラフが、碍子の上にちょこんと乗っている辺りが

交流2万V、を思わせる。


右、よし!

左、よし!


線路を渡る時は、特に気をつけないといけない。



本線は高速で列車が来るので、何かあると事故になったりする。


それは本当だ。




踏み切りでないところは、意外に線路の高さでも転倒したりするし

何か、モノを落として探す、なんて事があると

尚危険である。




視界の外の列車が高速で接近すると。



幸い、そのようなことはなく


機関車にたどり着き、編成を省みる。


ブルーの車体。ステンレスのライン。

24系25形、と言われる最終形。


滅びゆく夜行列車。その最後の形だ。



「いつか、乗るのかな。」と、お兄ちゃんは思う。



運転室に、ステップで登る。



登る、と言う言葉通り、垂直に登るのだ。


ドアを開けて、運転室に入る。




携行品も、また降りて、上げる。


けっこうな高さがあるので、大変だ。



それから携行品を、所定の場所に置き


時計を、操作盤に置く。



鍵を入れる。



かちゃり。



電源が入り、操作盤の電気が点く。

パイロットランプが光る。


空気圧計、電圧計、電流計。異常なし!。


機械室ブロワーが回り始める。


ごー・・・・と言う、なんとなく不気味にも聞こえる響きだ。

電気系・機械系の様々な機器を空気で冷やすのだ。



いつも、乗務していると

この瞬間は、とても楽しい。


巨大な機械を御している感覚が、あるのだ。







かたたん、かたたん・・・と、軽快な客車列車に乗って。

友里絵たちは、もうすぐ、この列車の終点、宮地に着く。



のどかな車窓は変わらない。

お昼前、すこし陽射しも感じられて。

九州は、もう夏のような感じの4月半ば。




♪チャイム♪

セレナーデ。


ーーまもなく、終点、宮地に着きます。どなたさまも、お忘れ物、落し物、御座いませんよう


にお願いいたします。

この列車は宮地止まりです。引き続いてのご乗車はできませんのでご注意下さい。

引き続き、大分方面へお越しのお客様、

特急あそ4号、別府行きは12時35分、およそ1時間の待ち合わせ。

普通列車大分ゆきは、そのあと13時05分ですーーー。


と、マイクでさかまゆちゃん。綺麗な澄んだ声。



友里絵は「上手いねー。」と。


由香は「すぐに車掌さんになれるな」(^^)。



マイクを置くときに、スイッチを切っていなかったので



ぼそ


と、音が車内に響いた。


さかまゆちゃんは、あら、と下向いちゃって。恥ずかしそう。

とってもかわいい。



ともちゃんに「ねね、じゃさ、一緒に行こうよ、大分まで」と、友里絵。



ともちゃんは「はい。お邪魔でなければ」と。


さかまゆちゃんは「なに?」と、ともちゃんが呼ぶので。


ともちゃんが、お話。


さかまゆちゃん「えー、いいんですか?」


由香「うん、だって、由布院だったら一緒じゃない、行き先。」



菜由「そだね」



愛紗「大勢の方が楽しいし」



さかまゆちゃんは「じゃ、列車が着いたら、私達、中間点呼しますから。

駅前にリッチモンドと言うパン屋さんがありますから、おかずパンが美味しいの。

そこで待っててくださいますか?」



友里絵「うんうん。いーよー。たのしーなぁ。お友達増えて」


ともちゃん「ハイ」にっこりすると少女みたい。凛々しい顔すると

フランスのお人形さんみたい。


話し声は甘ーい感じで。



菜由「ともちゃん、モテモテね」



とも「えー、そんなことないですー」と、にこにこ。



友里絵「さかまゆちゃんも。とってもかっこいいもん。女の子のファン、多いでしょ?」


さかまゆ「ハイ。たしかに・・・バレー部とか、バスケ部とか。後輩が、なんか」



友里絵「丘、エースをねらえ!」


由香「それはテニスだって」



友里絵「ねね、いなづまサーブやって!」


由香「あれはマンガだって」



さかまゆちゃんは、しゃがんで、右手をぐるぐる・・・。



とも「ノリいいなぁ、さかまゆ」と、笑う。



さかまゆ「あ、ボールがなかった」(^^)。





楽しく、楽しく・・列車は走る・・・・。




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