第278話 急行「球磨川」

「お世話になりました」と、愛紗は

フロントさんにご挨拶して。


菜由は「お代は・・・伯母さんのツケか」


愛紗は「そう。」


「さあさ、お代は見てのお楽しみ!」と、友里絵。


由香「化け物小屋かよ」と、ちょっとからかう。




友里絵は「なんで化け物なんだよ」

と。笑って。



フロントさんも、にこにこ「また、いらしてくださいね」



と、玄関を出て。

5人は、ぐるっと回ってキッチンに・・・。

網戸の向こうにいるおばあちゃんに「おばあちゃーん」と、声を掛けて。


おばあちゃんは、網戸の向こうから、こちらを見て「ああ、かえるの」と、にっこり。


サッシになっている、台所の引き戸を開けて。

からから・・・。




「後片付け、お手伝いしたかったけど」と、真由美ちゃん。



おばあちゃんは「いーよ。短いお休みなんだし。明日は?」と、にこにこ。



真由美ちゃん「B番だから、9時頃出ればいい」



おばあちゃん「そっか、ゆっくりしな。忙しい時は休めないし」



真由美ちゃん「ありがと」


おばあちゃんは「みなさんも休暇でしょ?」


球磨川を渡ってくる風は、涼しげ。

堤防の上は自動車が通れないので、静かでいい。

一応舗装はしてあるものの・・。



愛紗は「はい。土曜まで」



真由美ちゃんは「いいですねー。長い休暇って。憧れちゃう」


愛紗は・・・何故休暇が取れたか、みんながなぜ一緒に来てくれたか、を

思うと・・・ちょっと申し訳ないような、そんな気もする。

そう。愛紗の進む道を案じてくれたのだった。



友達ってありがたいなぁ。そう思う。



おばあちゃんは「そうだねー。わたしも、長く休んだことなんてない。

休んでも、することないし」



友里絵「それで旅行に」



おばあちゃんは「なるほど。ハハハ。じゃ、あたしはお昼の支度があるから。

道中お気をつけて」と、おばあちゃんはにっこり。



友里絵「ありがとうございます」

由香「お世話になりました」

菜由「お元気で」

愛紗「行ってきます」


そこから、5人で・・・今度は土手の上を歩いていく。



「昼間だと、虫もいないね」と、友里絵。


川沿いは、特に護岸をしていない自然のままなので・・・

草木が生い茂り。


鴨が、ふわふわ。波間に浮かぶ。



真由美ちゃんはにこにこ「あ、かわいい」


お母さん鴨と、子鴨たち。


くっついて、波間にゆらゆら・・・・。


友里絵も「ほんと。かわいいねー」


と、ケータイで写真撮ったり。



昼間なので、静か。慌しい雰囲気もない。

空は、少し薄くもりの感じだけど

かえって、涼しくていい。



「陽射しが強い感じがするけど」と、友里絵。


真由美ちゃん「そうですか?」


菜由は「なんとなく、そうかも」


由香は「少しだけ南だからかな」



確かに、相模よりは地図の上では南・・・なような気もする。



友里絵は「結構、遠いね」と、ちょっと疲れた、と言う表情。

堤防に腰を下ろして。



堤防と言っても、そのくらいの高さしかない。

土手の上だとは言え・・・。


由香「運動不足だよ。かばん持ってやるよ」と。


友里絵のかばんは、結構重い。


「何が入ってんだろ」と、開けてみると・・・。



友里絵は「あ、オトメのかばんを勝手に!、スケベ」と(^^;


由香「だれがオトメだ!女同士じゃん」(^^;


友里絵「いちおーオトメ」

と、ドヤ顔で。


由香「・・・まあ、生物的にはそうだが」

と、ちょっとマジメに。


友里絵「何がいいたい」

と、問い詰め顔。


由香「心がBBA」と、笑って。


菜由「まあ、あたしも・・・・。かも」



由香「菜由はいいのよ。」

と、優しく。


菜由「使用済みだからか」



由香「いや、そこまでは・・・言ってないけど」

と、焦る。(^^;




愛紗は「なんか、菜由も・・・ヒロシみたい」


菜由「・・・おいの人生、これでよかとですか・・・・。」と、背中丸めて。


由香「愛紗!音楽音楽!」


愛紗は「え?あたし?」



友里絵は「そーだって。相方じゃん」



愛紗は「いつから相方なの?」(^^;



友里絵「さ、歩こうか」


由香「オマエが座ったんだろ!」と、張り扇・・・は、ないか(^^;



真由美ちゃんは「乗り合いタクシー呼んでおけばよかったです」



菜由「あるの?そんなの?」


真由美ちゃん「ハイ。バスの代わりに。前の日までに言っておけばいいとか聞きました。

私は市民ですから。」



愛紗は「かえって便利かも」



菜由「でーもさぁ、大岡山でもあったんだけど。すぐに廃止になった」



愛紗「そうだっけ?」



菜由「うん。なんか、タクシーじゃ運びきれないらしい」



友里絵「いろいろあるな」



と、とことこ歩いていると。駅前から真っ直ぐの。赤い橋のところまで来た。



真由美ちゃんが、だんだん言葉少なになって・・・。

その気持が、友里絵にもよく判る。


駅前通りへと左折して。


ふるーい、コンクリートの舗道を歩いていて。


小川を渡って、左手に人吉神社が見えて。

昨日、遊んだ鶏さんの姿は、きょうは見えない。



友里絵も、ちょっとおとなしくなってしまう。

真由美ちゃんが沈んでると。


駅前まで来て。昨日の、からくり時計のところまで来て。


愛紗は「次は・・・急行「球磨川」かな?」

なんて言うと・・・真由美ちゃんはちょっと淋しそう。


友里絵は「そうだ!熊本行ってさ、おにーさんに会わせて!」と。



真由美ちゃんは「え?・・・・いるかしら・・・。ちょっと、聞いてきます」と、明るい表情になっ


て。


駅の事務室へ。



由香「友里絵さ・・・・。」


友里絵は「言いたい事はわかるけど」と、掌を上げて、俯いて。



菜由「そう・・・でも、真由美ちゃんも一緒に来たいみたいだし・・・。」


愛紗「明日が9時ならね。熊本往復くらいなら・・・。」



由香「そっか。でもさ・・・別れが辛くなるだけじゃ・・・・。」



友里絵「それはそうだけど。」



真由美ちゃんは、駅の事務室から帰ってきて

「機関区に行けば、ちょっとだけ会えそうですね」と、息弾ませて、にっこり。


かわいい表情。




菜由は「じゃ、お休みなのに、悪いけど。お願いしまーす」と、間延びして返事をして。


真由美ちゃんは「いいえ!わたしも、その方が、楽しいです!」



11時の急行「球磨川」に乗る事にした。




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