第196話 247D 指宿、定発!

指宿駅から乗ったディーゼルカーは、旧式で


使い込まれて、あちこちが磨り減っていて。

そのあたりが、路線バスに似ているな、と愛紗は思い

郷愁を感じる。


がらがらがら・・・・と、大きな音を立てて

ディーゼル・エンジンが回っている。


国鉄の、湘南電車と室内は似ているけれど

クーラーが後から付けたもののようで、天井に出っ張っていて。

懐かしい、扇風機がJNRマークと共に、天井に吊られている。



「なんか、レトロー。」と、友里絵は思う。


友里絵の世代だと、湘南電車は

ホントに幼い頃しか、乗ったことがないだろうから

そんな風に思うのだろう。


日南線辺りでは、このタイプは今でも走っているし

高校生の頃も良く乗ったから

愛紗や、菜由にとっては懐かしい車両。



ワンマン列車なので、バスのような料金箱と

整理券・運賃表示がついている事も

ちょっと、旅行に来たな、と言う気分の友里絵たち。



愛紗たちには日常的。



そのくらい感じ方は、記憶に左右される。





ツー、と言う機械式ブザーの音、可愛らしく

ドアが閉じる。



♪ぴんぽん♪ と言う、機械式チャイムの音も

素朴。



「この車両は、山川ゆきです。」と言う、簡素な女声の録音アナウンス。


九州に来ると、どこでも同じなので

それも旅情を誘う。



がらがらがら・・・と言うエンジンの音が、ごー、と連続音になり

屋根の上から黒い煙が、ふわふわ。


重たいボディが、ゆっくり、ゆっくり。



レールの継ぎ目を越えていく。



ごっとん、ごっとん・・・。





「なんか、乗ってて楽しいね。」と、友里絵。

「そだね」と、由香。



ごー、と、エンジンの回転は変わらないのだけれども

スピードが増していくのは、面白い。



トルク・コンバータ式流体クラッチの特徴である。




しばらくの間、ごー、と言うエンジンの音が変わらず進み


そのうちに、音が途切れて。


がちゃり、とギアが変わる。


その時に、車体が僅かに進む。その感じが機械的で面白い。


2速に変わったのだ。



そのまま、加速が続く。


ごー、と言う音が、少し低くなる。



レールの継ぎ目を越える音が、早くなる。



車窓は、海岸。それと、畑。

ひろーい野原。


大きな山。





もう一度、ギアが変わる。


もっとスピードが出る。


重厚に、レールを踏みしめて列車は進む。





そのうちに、エンジンの音がしなくなると


静か。


レールの上を、車輪が過ぎていく音だけが

金属的に、しゃー・・・。と、聞こえる。


電車だとわからない。


長い時間、そうして走っている間は

エンジンは、静かにアイドリングしているだけだ。



♪ぴんぽーん♪

と、愛らしいチャイムが聞こえ・・・・女声の録音アナウンスが


「・・・・間もなく、西大山です・・・。お降りの方は、一番前の車両の

前のドアからお降りください・・・。」




ワンマン運転なので、運転士が検札もするわけだ。

バスと同じである。


駅員がいる駅は、しなくていいのだけれど。






「さ、着いたみたい。」と、菜由。



「すぐだね」と、友里絵。



「景色いいな」と、由香。



「いいお天気」と、愛紗。



山と海、野原。畑。道路があるくらい。


単線のレールの脇に、ホームがあるだけの駅。


木で作られた「日本最南端の駅」と言う柱が立っているくらい。





「春来ると、菜の花が一杯で、綺麗だよ」と、菜由。



「なゆって、お花から?」と、由香。



「さあ・・・なんだろ」と、菜由。



「由香って、床から?」と、友里絵。



「んなわけないだろ」と、由香は、空手チョーっぷ(^^)。



「いてーなぁ、この。床掃除」と、友里絵も応酬。(^^)。



「やーめろって。まあ、誰もいないけど」と、菜由。



月曜だから、ほとんど回送列車である。

それはそうで、用務で鹿児島方面に行った車両の回送。

その代わりに乗せているだけだ。







バスでも、こういう事はよくある。

乗客がいなければ通過でいい、と言うような

割と、融通が利くのが路線バスのいい所である。



なので、車両の融通が利く場合は往復、客扱い。

そうでない場合は返却回送、になる。


時々、それがクレームになったりする。

方向幕が、昔は電光ではなくて

本当に幕だったので・・・・

巻き取るのを忘れて、あるいは面倒なので

そのまま走ると・・・。


停留所で待っていた客が、見間違えて、手をあげても

通過した、というクレーム電話をする事も、時々。



それも、あまり当てにはならず・・・

乗り遅れた客が、八つ当たりで嘘のクレームを入れる例もあるので

電話だけではなんとも言えず。


それなので、運行が謝るしかない。

それが、クレーマーに狙われる事もあった。


今ではGPS記録、ドライブレコーダがあるので

そういうクレーマーの言う事は「お伺いし、調査してご返答致します」と

嘘を言っても発覚するシステムになったが・・・。そうでない頃は

時々、悪い人が住んでいる地域には、あった。



なにせ、クレーマーが悪質な場合など、訴訟になったりする。

そういう場合、減給70000円、なんて事もあった。



その辺りが、以前の所長、岩市の付け狙いで


気に入らない運転手に、サクラの乗客を装いクレーム電話を入れて

問題を起こす、なんて事もした。。



でも、そんな時は平然と「事実はありません」と、

物的証拠を述べれば良い。


例えば、路線で運行中にすれ違ったバス、とか。

高架を通過していった新幹線、とか、在来線。


鉄道は時刻が正確なので、運行時刻の証拠になる。


そこにバスが居た、と言う事になる訳だ。


そうして論破してしまうので、岩市が面白くないのだろうけれど。



誠に問題なのは、そういう所長、なのだが。















愛紗たちは、指宿駅で貰った証明書を、運転士に見せると


運転士は、駅員から話を聞いていたので「ああ、いいよ。でも、降りてもなんにもないから。

写真撮るくらいだったら、待っててもいいよ。」と。



どうしようか・・・と、一同、考えるけど。


「待っていただくと、ダイヤに差し支えますから」と、愛紗は

ドライバーらしい判断。



バスよりは、鉄道の方がダイヤ回復は楽なのだけれども。



それで、降りる事になった、一同。










ちなみに「回復運転」と、現場では言うが

現在ではほとんど禁止になっている。


と言うのは、それで事故が増えるから。



多少、早く進んだところでも、大した回復にはならない。



仮に、60km/hなら km/minである。


30km/hで進む道路を、60km/hで走っても

1km先で30sec早いだけ、である。



その程度、乗降の速さで変わってしまうし

第一、信号があれば待たされる。


30km/hの道路を60km/hで走る事が不可能であることは

自明の理であるし・・・。



もし、車内で立ち客がいれば


その時、急ブレーキを掛けて転倒すれば

事故、である。


人身事故になる訳だ。



その、金銭賠償の方が高くつく。


そんな理由で、回復運転は禁止。



それ故、「遅れない走行」がいい、と

愛紗などは思う訳である・・・・が。



それも、そうではなく。



安全が第一、なのである。


「遅れない」と、思って走ると・・・つい、焦りが出て

見落とし事故につながる。



そんな理由である。



深町は、のんびり運転で有名であった。


有馬も「事故がない方がいい」と言っていたが。

それは本音である。


クレームがあっても、上手く処理すれば

金銭的には負担が少ないが、事故になってしまうと

国交省の監査が入る。


責任問題になるわけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る