第138話 12D、大分延発!30秒!

「あ、なーゆー!」と、友里絵。



3人は、大分駅市場の前を通って

旅行センターの前のドアから、出札の前。


券売機が並んでいる、どこにでもある国鉄の駅。



そこで。


菜由も「あ、友里絵チャン。元気ね」と、にこにこ。


菜由は、友里絵よりすこし背丈が高い。


がっちりとした体型で、朗らかな子。


愛紗と同じく、東山のスカウト(笑)で、鹿児島から

大岡山に。

そこで、ガイドをしていた。


愛紗みたいに、擬似恋愛(笑)にお熱を上げていたところ


工場のメカニック、石川に見初められた。



・・・と言うか、擬似恋愛ではなく


恋愛の対象に石川を選んだ菜由に、石川が応えた。


そういう感じである。



石川は、野武士のような正義感の持ち主で


以前、愛紗や菜由にセクハラ(とばかりも言えないが・・・)をしていた

営業男を追っ払ったり。



そういう、損得に囚われない、いい男だ。




それで、今は石川の奥さんである。







4人は、改札口の前。






「あ、そうだ。周遊券買ってきたよ。はい!」と、菜由は


友里絵と由香に、周遊券を渡した。



「ゆき券は使わなかったけど」と。



その時、改札の向こうに列車がやってくる。



茶色のディーゼル機関車は、金色の縁取り。


アルファ・ロメオのような、盾のモニュメントがついていて。



率いた客車も、同じ装飾だ。


ゆっくり、ゆっくり・・・。寝台列車のようだ。



「あれ、何?」と、友里絵。




「ななつぼしじゃないの?」と、由香。



「お米みたいな名前」と、友里絵。



「ほんと」と、菜由も笑う。



「豪華だなー。あれ。」と、友里絵。


車窓ごしに見える、カーテンや調度品も、本物の輝き。


グランド・ピアノが見えるラウンジ。



「乗りたいな、あれ」と、友里絵。




愛紗は「それは無理よ。指定席だし。たしか、30万円くらいだとか・・・。」



「ひえー」と、由香。



「ざんえんりゃくじ」と、友里絵。



「なんだそりゃ?」と、由香。




「比叡山延暦寺」と、友里絵。「中学で習ったじゃん」



「頭いいじゃん。中卒女」と、由香。



「中卒じゃないってば、今は」と、友里絵。



「じゃ、どうするの?これから」と、菜由。



「あ、そっかー。つぎの列車は12時40分だっけ」と、友里絵。



改札の前の時計を見ると・・・12時15分。



「まだ、20分に間に合うんじゃない?」と、友里絵。




その時、4番線に入ってきたグリーン・メタリックのハイデッカー。



「あ、あれ!、あれが20分?」と、友里絵。



愛紗は「そう。『ゆふいんの森』かしら」




「あれ乗ろうよ!」と、友里絵は駆け出して、改札に

周遊券を入れて。



階段を駆け下りて行った。




「おーい」と、由香が言ったけど


仕方ないから、追いかけた。「はぐれたら大変だ」



愛紗も、菜由も仕方なく。



「指定券持ってないから乗れないと思うけど・・」と、愛紗は思いながら。


改札を通り、階段を下りて。



大分から乗る人は、そんなに居ない。




豪華ツアー列車の先駆で、由布院、と言う保養地への

往来にいい列車を、と考えられたものだから


大分から博多に行く人は、ふつう、日豊本線の「ソニック」で行く。


こちらも結構ゴージャスで、普通の電車特急だけれども

シートが革張り、フロアがフローリング、デッキ隔壁が硝子、とか

航空機のようなデザイン。


振り子電車で、カーブで傾く独特の乗り味は

オートバイのようだ。





飛び出していった友里絵、とは言え

5分少々で4番線に行くには結構大変。



階段を駆け上がる。



3人も追いついた。


友里絵は、階段を駆け上がったところで


最後部デッキの車掌が笛を鳴らす。



大分駅は、昔ながらの発車ベルである。




「ゆふいんの森」のCAも、もう車内に入っていたので


その、空いていたドアから飛び乗った友里絵。



3人も、乗ろうとしたので


車掌は、ドアを閉じずに待ってあげた。



「えい!」と、菜由たちは

友里絵に続いて。





ドアがゆっくり閉じた。


12時20分。ちょっと延発かな。






「飛び出したらダメじゃん」と、由香。



友里絵は「ごめーん、乗ってみたかったんだもん」



「幼児かいキミは」と、由香。笑って。由香の頭を小突く。



へへ、と友里絵。



その様子を見ていたCAは、にこにこ。



愛紗は「あの・・・そういうワケなのですけど、空席はありますか?」



CAは、すっきりとした美人である。

黒いスーツ。赤いアクセント。

スカーフ。



携帯端末を取り出し、空席確認。



「はい、4名様ですね。ございます。どちらまで行かれますか?」と、物腰も丁寧。



話し方からして航空機のCAのよう。




愛紗は「久留米までです」




「ご一緒で宜しいですか?」とCA。金額を告げる。


友里絵は「え!お金かかるのー。」


CAは、口元を押さえて微笑む。「はい、周遊券ですと

自由席特急にはご乗車出来ますが

この列車は指定席特急券が必要です。」



友里絵は「乗り放題だと思ったー。まあ、「富士」よりは安いか」



由香は、小さな声で ばか、と、微笑む。





愛紗がカードで支払う。





「『富士』でいらしたのですか?」と、CAが尋ねる。




友里絵は「はい、飛行機が飛ばないと困るから、雨で」と。



CAは「きょうはいいお天気で、何よりですね。」と、微笑む。

自然に、そうした会話をしてくれるけれども

それも、おもてなしである。



「はい!楽しみます!」と、友里絵。



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