第119話 ゆりえちゃん

深町は、八重洲口の横にある

地下鉄連絡通路用の改札から、東京駅に入った。

午後8時過ぎは、まだ、人通りが多い。


北通路、店がなにもないので

ビジネス・ユースの人がよく使う通路を歩いて

比較的空いている、流れが整然としているそこの流れにあわせ

新幹線ホームを目指す。


中央線は3階。

山手線は二階。

京葉線は地下二階。


東海道線の下を潜り、新幹線への改札へと右折して

狭い通路を歩く。


そのまま出て、外改札から入る方法もあるが

遠回りになる。けれど、ドトール・コーヒーに寄ったり

日本食堂に行く時は、ここを使ったりする。


大手町駅から地下鉄に乗るにも、いい。




新幹線連絡改札の、自動改札に定期券を入れて。


3ヶ月で25万円程度。勿体無いのだが

一番安い。



エスカレータに乗り「こだま」に乗車する。


この時間だと、もう空いてきていて

乗車は楽である。




6号車、自由席に座った。



車内は空いている。


オルゴールが流れる。アンビシャス・ジャパン。



「そう、コンビニでバイトしてた時、これが流行ってて。

なぜか泣けてきたな・・」と、彼は回想する。



希望が無かった。そんな時、友里絵ちゃんに出あったんだっけ。

なんとなく、救われた・・・・。」




愛らしい存在。

愛でるだけで、心和む。



そんなこともあるのだろう。





ーーLadies , and gentlemen . this is "kodama- superexpress " bound for mishima.


brief stop all-station ....と、自動音声の女性の声が流れる。



車掌の声が入る。



ーーーこの列車は、こだま861号、三島ゆきです。新幹線の各駅に停車致します。


まもなくの発車です。ご乗車の方はお乗り遅れの無いようにお願い致します。

お見送りの方は、ホームからお願い致します。

到着駅と時刻は、後ほどご案内致しますーーー。





「ゆりえちゃん、なぜか僕を怖がらない子で。可愛かったな」


その頃、ラジオから「アンビシャス・ジャパン」が流れて


そう、希望になったんだっけ。



職を失い、アルバイトを掛け持ちしていたその頃。


郵便集荷のアルバイトに就いたが、これも郵政民営化の直前で

一日6時間しか働けなかった。

健康保険を入らせないようにする目的だった。


まあ、以前の会社の継続でなんとかした。

厚生年金は免除申請して。




早朝はコンビニでアルバイトして。

それで生計をつないでいた。



まだ、フリーでやっていけるか不安だったその頃。


早朝のコンビニで、一緒の番だったのが友里絵だった。



朝6時ー9時までと言う時間だが、時給がいいので

割と見入りはあった。


郵便が820円、コンビニは950円と

郵便が低すぎるのだが


仕事が無いのは仕方が無い。



「いつも、遅刻してきて。『ごめーん、遅れたー。』とかいいながら。」

茶色い髪と、いつもスラックスなのが特徴で。

小柄な子。スクーターに派手なヘルメット。

ステッカーを一杯貼ってて。



「なんか、子供、って感じだったっけ。」




最初は、尖がった感じの女の子で

ケータイぱっかり弄ってて。



でも、最初にあったとき


「あたし、メーシないから」って、レシートの紙の裏に

名前を書いて。



それを渡したんだった。



僕は、なぜかそれを捨てたんだ。なぜそうしたのか

不可解なんだけど。


今でも悔やまれる。




お返しに書いたけど。




そんなことは気にもせず。天真爛漫な友里絵だった。



どらえもんの絵を描いたり。


レジにあるマスコットを触って、遊んだり。


暇な店で、そんな感じに時が過ぎていって。


それは秋のことだった。




そのうちに、少しづつ話をするようになって。



笑顔を見せてくれる。

それだけでも楽しかった。



「あたし、早く結婚して赤ちゃんほしいの」なんて話を

するくらい無邪気で。

僕のことは怖いと思っていない、そういう風だった。





「こんなあたしをどう思う?」って言うから



「いいんじゃない、かわいいと思うよ。」と言うと



「ホントに!ほんとにホント!」と。


なんだか、すごく嬉しそうにしてたっけな。




それから、ちょっとしおらしくなって。

でも、僕のことをお友達みたいな感じに接するようになって。



秋の深まった頃「ねえ、あたし、好きな人がいるんだけど

その人は、あたしからマフラー貰ったら、嬉しいと思うかな?」なんて言うから




「うれしいとおもうよ」と言うと


少し考えて。



「その人がさ、貰ってくれなかったら、マフラー貰ってくれる?」




「いいよ」と答えたら。


すごく嬉しそうにして「クリスマスまでに編めるかなー。」


なんて、手芸の本、コンビニの売り物の(笑)

それを見て勉強してたり。



一生懸命な子だったな。







そう、回想している彼を乗せて。新幹線は発車した。



ゆっくり、ゆっくり。














  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る