第109話  なゆ

「これが、焼き米」

湯のみに、焼き米と

お茶。それに、好みでお塩とか、柚子胡椒とか。


友里絵は「いっただきまーす」と、ぐい、と。「熱っ」


「熱いって言おうと思ったけど、遅かったか」と、由香。



「ああ、ごめんね、ちょっと熱かったね。それ、少しふやけてから食べるから。」と

愛紗。


バックの中の携帯に、メール着信。



「なんだろ」


菜由からで。「明日のお昼頃、飛行機で宮崎空港に行くよー。」と。



「菜由、来るって」と、愛紗。



「ひさしぶりー。」と友里絵。


「奥さんしてるかな」と、由香。



「飛行機飛ぶの?」と、友里絵。



「わからないけど・・・飛ぶみたい」と、愛紗。



「なーんだ。ま、いっか。列車の旅、楽しかったもんね。」と由香。



「帰りもそうする?」と、友里絵。



「次の日のダイヤによるね」と、由香。




翌日の支度、とかあるから

その前の日の昼頃戻らないとならない場合がある。


それだと・・・休みが一日短いのと同じだが



(路線では、現在は出来ないように法改正された。

観光は今でもそう)。




「ま、いいじゃない。ゆとり持って前前日の夜帰れば。

前日の朝着けばさ、大丈夫だよ。」と、由香。



「愛紗はどうするの?」と、友里絵。


「とりあえず、帰るつもりだけど・・・。」と。


伯母さんは「じゃ、その日の上り「富士」かな?


と、コンピュータを叩くと


「あ、あるね。個室でいいでしょ?」と。



「お願いします」と。3人。


土曜の夜でも、上りはそんなに混んでいない。



「なゆのは?」と、由香。


「あ、そっか、追加1」


「はいはい」と、おばさんは

コンピュータを上手く操作して。



愛紗が持っていたような、水色の指定券を出した。



「かっこいいね」友里絵。


「落とすなよ」由香。


9450円なり。


「なゆのは?」と、友里絵。


「いい、私が払っておくから」と、愛紗。


「優しいなぁ」。と、友里絵。



「親友だもんねー。」と、由香。




「なゆの宿も一緒?」と、友里絵。


「そう。私も」と、愛紗。



「愛紗の家でも良かったのに。」と、友里絵が言うと・・・。


由香は「それだとさ、愛紗が困るんじゃん」


「なんで?」



「だって、私らが居るとバレちゃうじゃん。ドライバーに志願した事」



と、由香。




「あっそーか。」と、友里絵。


「そーだよぉ。大分駅だってさ、しゃべったじゃん。うどんのスタンドで」と、由香。



愛紗も、それには気がつかなかった。



「平気だよ、そのくらい」と、言ったものの・・・。



あの人は、私がどこの誰かを知ってるから・・・。


とか、思わないでもなかった。







その頃、菜由は


家で、旅支度をしていた。


石川は、今日は少し早めに帰れた。


土曜日は、終わるのが早いし

日曜は休み。


バス会社の整備士は、時間の面では比較的楽だ。


プロ・ドライバーが相手だし、クレーマーの心配もない。



ただ、機械が大きいから、ヘタをすると命取りである。



それは本当で、クラッチを交換するにしても


慎重にやらないと危険だ。

もし落下して、下にいたら終わりである。



「楽しそうだね」と、石川も微笑む。



「あなたも一緒に行けたらいいのに」と、菜由。



「それは、また今度。」と、石川。



「そうね」



石川の家は、大岡山営業所から

山の方へ昇り、高速道路のICを越えて


休暇センターのすこし上。元々は別荘地だったところ。



ドライバーで深町の同期、森下も近くに住んでいる。



バブル時代の造成なので、かなり売れ残って安い。


それで、マンションを買うくらいの値段で買えた。












「ねえ、おばさん、今日は何時まで仕事?」と、愛紗。



「きょうはね、18時でいいの」と、愛紗の伯母。




「早いんですね」と、友里絵。



「そう、委託駅員ってね。本当の駅員じゃないから。定期とか、指定券とか。

自動販売機で買えないのを売るの、と・・・


ここの販売所ね。それの管理」




「なーるほど」と。由香。



「昼間はね、近所のおばあちゃんの社交場みたいね」




「温泉でも行ってきたら?その下の道路沿いにあるから。」と、伯母さん。



「じゃ、行ってこようかな」と、友里絵。


由香も「昨日入ってないからね」


「臭いぞ」と友里絵。


「オマエもな」と、由香。



ははは、と笑いながら。


「愛紗は?」と、友里絵。


「あたしも、いこうかな、それじゃ」と、愛紗も。



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