第110話 温泉

ふれあい温泉は、河沿いにあって

駅から歩くとすぐ。


おばさんも「わたしも、駅を締めたら行くから、お先にどうぞ。」と。

にこにこ。


「じゃ、いってきまーす。」と友里絵。


「お先にいってまいります。」と、由香。


「待ってるね。」と、愛紗。



ゆっくり入ってて、と、おばさん。




荷物を駅の出札に置いたままなので、身軽。



「着替えの下着持ってきた?」と、由香。


「うん。」と、友里絵。「ゆうべ、お風呂はいれなかったから。」


「キタネーなぁ。いんきんになるぞ。」と由香。



「キンないじゃん」と、友里絵。


「あっそーかー。いんまんか」と、由香。



愛紗も、面白いけど笑えない(笑)。



「♪いんまんはやまなかーいんまんはかわー♪」と、友里絵がヘンな歌を歌うので


由香はわはは、と笑った。


駅の前は、砂地のロータリーになっていて

コミュニティバスが来るようになっている。


「運転するとしたら、これかな。」と、由香。


「そうね。おばさんの話だと、あんまり仕事ないみたい。」と、愛紗。


「それで出たんだもんね。」と友里絵。


「急にまともになるなぁ」と、由香。


ははは、と笑って。


駅を後に。


ちょっと狭いかな、と言うくらいの道路沿いに、大きな犬が寝ていたりするのも

田舎らしい。



友里絵は犬好きなので「よしよし」と、そばに行って。


「よく、怖くないな」と、由香。


「わんこ好きね、友里絵ちゃん」と、愛紗。



「うん、犬はね、好きな人が分かるんだって」と。


「トリマーになりたいんだもんね、友里絵」と、由香。



「そうなの?」と、愛紗。



「そう。それでバイトしてた時に、タマちゃんに遇った。コンビニでね。」と、由香。



「なるほど・・・。」



古い、紡績工場の脇を通ると近道だ。



この辺りにも、そうした産業の変遷が見え隠れする。


自然素材の繊維ー化学繊維、となった辺りで

こうした、地域にあった木綿や、麻、生糸の工場は

無くなっていった。


元々、産業を作る事が目的で

西洋、イギリスに倣ったものであった。


鉄道、郵便も同じで


郵便貯金を原資として、鉄道が敷かれたり、産業が興された。




ところが、人間は堕落する人も居て


そうした安泰な原資を無駄にする人が増えて



だんだん、廃れていった。






「さ、着いた」と、愛紗。



立派な木造の玄関は駅と同じで


名産の木材を使用したもの。


美しい木目は工芸品のようだ。



結構、温泉は賑わっているが


山間の温泉なので、地元の人がほとんど。




ひろい玄関を入る。




スケールが都会とは違い、エントランスだけで

大広間くらい。



いらっしゃいませ、と

にこやかな受付さんは、地元のおばさんたちのようで


入場券を買って、渡す。


「町民はただなの」と、愛紗。



「おばさんは無料か、いいなぁ」と、友里絵。


「住め」と、由香。


「仕事があればね」と、友里絵。



「右同じ」と、愛紗。


鍵のついた下駄箱に、靴を入れて。


このあたりは都会的。



「200円は安いね」と、由香。



「補助が出てるんでしょ」と、友里絵。


「お!頭いいじゃん」と由香。


「へへ」と、友里絵。


「誰に聞いた?」と、由香。



「タマちゃん」と、友里絵。



「お前の情報はタマちゃん系かい、みんな」と、由香。


「へへ。だってさ。」と、友里絵。


「よく電話するの?」と、愛紗。


「気になる?大丈夫。あたしはさ・・・。いいんだ。

片想いだって。」と友里絵。



ひろーい玄関は、板張りなので

スリッパを履いて。



すた、すた、すた・・・。




「友里絵はさ、好きなんだよね、片想い」と、由香。




「そうなの。」と、愛紗。


大きな、これも木造の重そうな引き戸を開けて


女湯の脱衣場へ。


ここも広い。




やっぱり木で出来たロッカーの扉。


大きいのと、小さいのと。



「旅人用もあるのね」と、愛紗。


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