第102話 朝の山陽本線

「皆様、おはようございます。時刻は午前6時。列車は、定刻より2時間遅れで

走行しております。定刻ですと徳山に到着する時刻ですが・・・と、

ハイケンスのセレナーデのオルゴールの後、車掌さんの声が個室のスピーカーに

届く。

昨夜、ラジオを聴いていたせいで音量が大きく、驚いてしまって。

三角の音量ボタンを下げた愛紗だった。


「ふあ・・・。」と。


「由香たちは寝てるかな」と


そーっと、廊下から様子を伺うと・・

まだ寝てるみたい。



「寝かしとこ」




バスガイドは時間が不規則だから。


昨日も乗務だったら、朝は4時くらいに起きている筈だ。


それからずっと乗務。


夕方6時に帰れた、レア・ケースだったにしても。


普通は夜は8時くらいになる。




愛紗も、おはよう放送で起きてしまったけど

まだ、眠い。


「もう一回、寝よ」


普段の生活では出来ない、こういう時間の使い方は

かなり贅沢ね、と愛紗は思った。


スケジュールに追われるような、バスの仕事。



「・・・鉄道も同じね。」なんて思ったりもした。



「わたしは、何がしたかったのでしょう?」と

思っても、何もないような気もする。


ただ、親の言いなりになって

結婚相手まで決められたりするのが嫌だった。

それだけ、かもしれなかった。



列車は、ことこと揺れながら

結構な速度で走っている・・・。




列車が揺れ、止まった。


「どこの駅かしら・・。」と、ブラインドを上げてみると


徳山駅だった。


下り線側のホームに、「うどん」「弁当」と

スタンドのお店がある。


土曜日だけど、学生服のひとたちが

電車を待っている。


ベッドに横になって、浴衣でその情景を見るのも

非日常的で、いいものだ。




時計を見ると、8時だった。


「少し、遅れは戻ったのかな。」



6時少し過ぎ、くらいの定刻だったような記憶がある。


ここで、いつもは

朝、作られた駅弁が積み込まれて。


出来立ての温かい駅弁を食べた、そんな思い出がある。



「あの時は・・・・誰と乗ったんだろう?どこへ行ったんだろう?」


何も覚えていない(笑)。



「・・・修学旅行・・?じゃ、ないな。」


おじいちゃんかな。


なんて思ったり。



おじいちゃんは、愛紗を可愛がってくれていたから

よく、どこかへ連れて行ってくれたっけ。








そんな回想を続けているうちに、また眠ってしまう・・・・。






そのうちに、階下で由香と、友里恵の声がしたような気がしたが

眠いので(笑)


そのまま、寝ていた。




ハイケンスのセレナーデの、オルゴール。



・・・ご乗車ありがとうございました。まもなく下関です。

お出口は左側・・・

下関では、機関車付け替えのため、およそ10分停車致します。


ホーム上、8号車付近に売店がございます。

お買い物の際はお乗り遅れにお気をつけ下さい、ホーム上の発車ベルは

鳴りません・・・。


まもなく、下関です・・・。


と、日野車掌の声も、すこし疲れているように聞こえる。



時計を見ると、10時45分。



2時間近く、遅れている。



「よく寝たわね。」


・・・と、思ったが。




特に空腹でもないので、また眠ってしまう(笑)。




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