第73話 1列車、場内進行

「だけど、なんで鉄道なんだろ」

愛紗は、個室寝台8号車10番に戻って

扉の鍵を掛ける。


なんとなく安心するのは、やっぱり女の子だから。



「家に居ても、なんとなく」


父や母が、小さな子供みたいに

自分の行動を仔細に干渉するのが


嫌だったし、それはお嫁に行っても変わらないのかな、なんて

思って。


逃げるみたいに大岡山へ出てきたのは


募集が偶々、全国規模の東山だったから。


田舎に居ると、そういう事も時々ある。




でも。



東山、大岡山は安心できた。


愛紗を子供扱いしないし。

それは当たり前だけど。


いちいち監視されてるみたいな家にいるよりも

余程、良かった。



「それがなぁ」


大岡山でドライバーを志望したばっかりに


田舎に戻れ、と云われるなんて。


ちょっとがっかりした。



「でも、まあ、大分のおばさんのところなら」



親元からも離れてるし、あそこならのんびり仕事できるかな。


由布院に営業所ってあったかなぁ、なんて


愛紗は思いながら。個室寝台に揺られている。



2階は割りと揺れるんだけど、それも、なんとなく

楽しみのうち。



窓が、天井についているので


星を見ながら旅ができるし。


雨でも降れば、水滴が流れて綺麗だ。



夜、駅を通過すると


その水滴に、明かりが撥ねて

とっても綺麗だ。



今は、雨じゃないけどと

個室のブラインドカーテンを開ける。



スライド式の布カーテンで


窓に沿って湾曲している、凝ったつくり。



窓の外は、どこか、工業都市だろうか。


この列車は通過する。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る