第62話 オシ24

7号車、食堂車は

それなので、1970年代へ

時間旅行したみたいな、楽しさを味わえる。


豪華列車のダイニングカー、みたいな

贅沢さと違って


物が無かった時代の、憧れは

こんな感じだったのかな、と

思わせる感じだ。



面白いのは、テーブルクロスが

ビニールで、お皿が滑らないように

なっている事。


実利優先なのだ。

見た目を気にして、綺麗な布を使えば

クロス引きの奇術のように、急停車したら

目茶苦茶になってしまうので


それは、あくまでも国鉄。


流石な所、なんて


バスの運転手から解放された愛紗は


でも、急停車も出来ない、衝突も出来ないなんて

路線バスは、大岡山みたいな

江戸時代の街道なんかを走ってたら危ないと

今、振り返ると思う。





「もう、いいか。忘れないと」と


笑顔になって、レモンスカッシュを楽しむ。


スパークリングの爽やかな刺激。



列車は、横浜を発車して



緑豊かな切り通しを走る。

以前は畑ばかりで、[ポーソー米油]なんて

タンクが建っていた。




東北へ行くと見かける[テレビはナショナル]なんて看板を思い出し

懐かしく思う人もいるだろう。




少しは乗客が増えたのかもしれないが。



この列車、16時30分では

今は早すぎるらしく、東京駅から乗る人は

そんなに居ない。


旅行ファンか、出張の人くらい。


新幹線の最終でも、博多には

この列車より早く着いてしまうから

そちらでビジネスホテルに泊まった方が

楽だったりする。


小倉到着は朝9時、だ。



格安飛行機が増えて、九州くらいなら

飛行機を選ぶ企業も増えた。



博多あたりなら、A寝台と変わらないのだ。



ただ、空港で待たされるし、気候に左右されるから


台風シーズンは難しい。






軽快なオルゴールで、車内アナウンスが入る。



車掌さんの声も、通勤電車の

鼻に掛かった声でなく。



あれは、わざと歪ませて

声を通り易くする技術で(本当だ)。

エレキギターのそれと同じである。



特急なので、あくまでも落ち着いて

格調高い。




ーこの列車は、寝台特急

富士号、西鹿児島ゆきです。


東海道線、山陽線、日豊線を経由いたします。


博多、鳥栖、熊本方面には参りません。

お乗り間違いにご注意下さい。



ただいま、横浜を定時に発車致しました。

これから、停まります駅と、停車時刻、

ご旅行についてご案内させていただきます。


次は、熱海に停まります、18時20分の

予定ですー



と、アナウンスは慣れた感じで続く。



ご旅行、なんて言葉に

とても感動する愛紗だった。

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