第34話 お友達

「あの、別の所でドライバーをするのも

希望できますか?」と、愛紗。


有馬は少し考えて「出来ないこともないが

うちの対面もあるから、全くの新人を

紹介して、受け入れてくれるところでないとね。九州なら、私の故郷だから

なんとかなるが」



そういえば、、西郷隆盛に少し似ている。

眉が太くて、がっしりしていて。



愛紗は「わかりました。ありがとうございます。」





礼をして、運転課長席から離れた。




事務所を出て、駐車場を歩いてると



「あーいしゃー。帰り?」友利絵だった。


小柄で、丸顔で。


とっても可愛い。赤ちゃんみたい。



「どしたの?休むの断られた?」



と、気遣う。




愛紗は、野田たちの意見を言った。




友利絵は「それなら、転身認めなければいいのにねー。」



愛紗は「うん、会社はね、事故起こしても

ドライバー責任だから入れちゃうんだけど

野田さんたちは、私の事を考えてくれてるの。

優しすぎるから、って。それにね」




性犯罪の話をした。



「うーん。それはあるかも。あたしもね。

13で家出したって、それなの」と、友利絵。



愛紗は驚く。




友利絵は「うん。中学の教師がね。無理矢理。

だけど、あたしは蹴っ飛ばしてやって。

椅子でぶん殴ってやったよ、教室だったから」



愛紗は、笑った。あんまり爽快で。



「ごめん、笑って」



友利絵も笑顔で「うん、その話をお父さんに

言えないし。お母さんにも言えないから暫く匿って貰ってたのね、友達のとこ。

由香のとこも行ったけど、」



愛紗は「どうして言えないの?」



友利絵は「そんな事したら、お父さん殺人犯になっちゃうよ。本当。そういう人だから。

怒ると何するか解らないの。」




愛紗は、なんとなく深町に似てるな、と

思った。


あの人も暴力は使わないけど、

法律とかで。



それは、暴力よりも危険かもしれない。



そのせいかしらないが、岩市は懲戒免職なのだから。

前科もついた。


噂では深町の仕業だと言われてて。


確かに、そうかもしれない。




それは、暴力で傷つけるより怖い。





友利絵は「でもね、たまちゃんと出逢って

もう一度、やり直そうって思ったの。


可愛い、可愛い、って言ってくれて。

不良だなんで変な目でみないもの。

こういう人が居てくれれば。」



愛紗は「お父さんに似てるのかな。私の

お父さんもそうかも。」



愛紗がもし、被害にあったら


本当に、床の間の日本刀を持って

出かけるだろう。



そういう家だから。それだけに

被害に遭えない。



野田の言う気持ちもよく解った。





友利絵は「あたしはでも、無傷なの。

未遂だったのよ、その教師。」



愛紗は「どうして?」



友利絵は、笑って「だから、思い切り蹴飛ばしてやったから、使い物にならなかったの。アレが」



愛紗は、笑ってしまった。




友利絵は、その位でないとダメよ。と

笑って。



「学校も警察に届けなかったの。事故にしたくないからって。それで、家に謝りに来て。


校長と教頭。それでもお父さん怒ってね。

犯人を出せ!」




愛紗は「それはそうよね。」


友利絵は

「教育委員会もね、その事件を

表にしたくなかったの。それで、その教師を

諭旨退職にして。その代わりあたしは

卒業できた。でも、勉強がねえ。




それから、高校もなんとなく入れてもらえたけど、お情けでね。


でも、なんとなくバックレてて。



それで、コンビニでバイトしてたのね。


家から遠い、西の森で。


そこで、出逢ったって訳。


あれで、人生幸せになったの。」



と、友利絵。


屈託のない笑顔にも、

そんな苦労があるんだな、って

愛紗は思った。




それで、友利絵の思いやりもわかった。




愛紗が、怖い思いをしないように。って。



そんな気持ち。

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