ストレイドッグは立ち上がる〜

透真もぐら

始まりの空

プロローグ




「おい!まて!このっ!てめぇら、ぶっ殺してやる!」


 そんな罵声を浴びながら俺たちは走っていた。


 途中なんども足がもつれそうになる。もう何日も食べていないからだ。


 人間という生き物は不思議なもので脆い脆いと言われるわりには残念なぐらいに丈夫らしい。数日食を抜いても走る力は残っている。


 だが、沸点は低くなる。


 追ってくる大人たちの顔をチラと見る。

 その顔は赤色で、とても自分とは同じ生物には見えない。彼らを焚き付けるのは空腹と、ガキにちょろまかされたことへの屈辱感か。


「ソラ!こっちだ!」

「!」


 俺の名前を呼ぶ声がした。

 目の前の角を曲がる。それと同時に視界に入った排水路を目指す。


 ガンッ


「……っ…………」


 すねをぶつけ体勢を崩したが手を引っ張られなんとか滑り込む。


 ぶつけた脛からは血が垂れる感覚がしたが、放っておけばいつか塞がるだろう。


 人間というものは全く丈夫なものである。


「くそ!どこ行きやがったあの野郎!」


 息を潜め、なんとかやりすごす。ポタポタと肩に汚水がかかるのもさして気にはならなかった。


「行ったみたい、だな。」


「はぁ、はぁ、おう。」


 白髪の少年マミヤは、息も絶え絶えな俺に話しかけてくる。俺の手にはパンの切れ端が握られていた。


 とても美味しそうには見えないそれも俺たちにとっては立派な栄養分になる。

 俺はそれを二つに分け、小さい方をマミヤに渡した。


 マミヤはしばらく何も言わずにこちらを睨んできたが、言い争う気力もないのか黙ってパンを手に取った。


「女神に感謝を。」


 マミヤは手を合わせてパンを口に入れた。


「…………………」


 俺は何も言わずにパンを口に運んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る