第27話

 

 東京に比べれば簡素な空港に到着して、晴那はジワジワと切なさが込み上げていた。


 飛行機の窓から見えた海の景色だけでも、懐かしさで感極まってしまいそうだったのだ。


 「本当に来ちゃったよ…」


 東京の空港より入っているお店も少なく、規模も小さいというのに、思い入れはよっぽどこっちの方がある。


 手荷物は預けていないため、すぐに搭乗口を出れば、ひまりは驚いたように声を上げていた。


 「沖縄暑くない!?」

 「だってゴールデンウィークだよ?普通もう半袖だよ」

 「さすが沖縄…とりあえず服買おう」


 空港内のお土産屋さんに入って、Tシャツを物色する。

 2人とも長袖を着ていたため、このままでは暑さにやられてしまうことは目に見えていた。


 悩んだ末に、2人とも同じ柄の色違いのTシャツを購入していた。沖縄で有名なお酒メーカーのロゴが入ったTシャツなのだが、ひまりいわくSNSで可愛いと有名なものらしい。

 

 街中で見るたびに、観光客が着る物と思っていたこのTシャツを、まさか自分が着ることになるとは思いもしなかった。


 晴那はネイビーカラーで、ひまりはホワイトカラー。

 二人ともデニムのショートパンツとスカートを履いているため、一見ペアルックのような格好だ。


 サイズは一つ上のLサイズを購入したのだが、ダボッとした着用感が尚更可愛さを引き立てているような気がした。



 

 空港を出た2人は、ゆいレールで観光地まで向かっていた。

 お昼時ということもあって、駅に近い沖縄料理店で腹ごしらえをすることで意見が纏まったのだ。

 

 「食べたらどこ行くの?」

 「国際通り」


 やはり観光といえばそこらしい。

 久しぶりに乗ったゆいレールは、お昼時ということもあって車内は余裕で座れるスペースがある。


 高いところからこうやって、沖縄の景色を見下ろすのも久しぶりだ。


 つい思い出に浸っていれば、あっという間に目的地に到着する。


 1番近くにあった沖縄料理屋へ入って、ひまりは沖縄そばを、晴那はグルクン定食を注文していた。


 「美味しい」

 「その魚なに?初めて見た」

 「ぐるくん。美味しいよ」


 箸で実を摘んでから、ひまりの口元まで運ぶ。

 口に招き入れて何度か噛み締めた後、彼女は美味しそうに口角を上げて見せた。


 「めっちゃ美味しい。あたしもそれにすればよかった」

 「でしょ?うみんちゅハウスでも食べられるから、暇な時来てね。それかうちに来ればお母さんが作ってくれると思う」

 「うみんちゅハウスって、シマの両親がやってるお店よね?」

 「うん。沖縄料理屋さんで、沖縄にも店舗があるんだよ」


 本店である沖縄店も、以前と変わらず賑わっているらしい。そのうちまた別の土地でも開店したいと父親は息巻いていた。


 

 腹ごしらえを終えてから、2人はゆっくりと国際通りを歩いていた。ゴールデンウィークということもあって人は多い。

 あちらこちらから、観光客と思わしき標準語が聞こえくる。


 「沖縄に、何しに来たの?」

 「旅行。次、やちむんで食器みたい」


 国際通りとやちむんの里は歩いて直ぐの距離にあるため、ひまりのために案内をする。

 沖縄であれば、晴那も自信を持って土地を紹介できるのだ。


 どうやらひまりの家の食器は古くなってしまったらしく、兼ねてより買い替えたいと思っていたらしい。


 様々な食器屋を物色するが、どれも味が合って魅力的だ。

 色々と悩んだ末に、ひまりは3軒目に訪れたお店の焼き物に決めていた。


 渡された買い物カゴに、お茶碗や大皿を幾つか入れている。


 「なんで4セット…?」

 

 指摘すれば、少し頬を赤らめてから、2セット分を戸棚に戻していた。


 父親と2人暮らしなため、食器は2つセットでいい筈だというのに、何故余分に買おうとしていたのだろうか。


 もしかしたら、お客様が来る時ように買おうとしていたのかもしれない。


 だとしたら棚に戻す必要はなかったのではと思うが、ひまりが深掘りされたくなさそうな雰囲気を醸し出していたため、それ以上言及する気にもなれなかった。


 食器は重たいため、自宅に配送してもらうように手配をする。そのおかげで、身軽なまま店を出ることができていた。


 お気に入りのデザインのものを買えたらしく、ひまりはかなり満足気だ。

 

 14時という1番日差しの強い時間帯なため、肌がジリジリと焼けるような暑さを感じる。

 それすらも懐かしいと思っていれば、反対の通りに、見知った顔を見つけた。

 

 「あ…」


 小学校の頃に同級生だった女の子で、かなり仲も良かったのだ。

 声を掛けようか、と悩んでいれば、ひまりによって反対方向に腕を引っ張られてしまっていた。


 「次、あっち行こう」


 そのまま引き摺られてしまい、友達とはどんどん距離が遠くなっていく。


 あちらは晴那に気づく様子もない。


 声を掛けれなくて残念だったが、少しホッとしているのも事実。

 この土地でかつての友達と会っても、上手く笑える自信がなかったのだ。

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