第13話
花壇のある裏庭から、由羅と晴那は校舎裏へと移動していた。野良猫は由羅に相当懐いているようで、先ほどから足元に擦り寄って離れない。
壁にもたれ掛かりながら、2人で並びんで腰を下ろす。
「まさか由羅さんと同じ高校だとは思いませんでした」
「私も…意外と世界って狭いね」
本当にその通りだと思いながら、晴那は薄々由羅がその話題を避けていたことに気付き始めていた。
高校はどこなの?というありふれた会話を、由羅はあえて出さなかったのではないだろうか。
「あの、私言いませんから」
「なにを…?」
「由羅さんがバイトしてること…」
この学校では特別な事情がない限りアルバイトを禁止されているのだ。
もしかしたら由羅は、オーナーである晴那の親から学校に連絡を入れられてしまうことを恐れていたのかもしれない。
沖縄の頃もそう言う子は数人いたが、晴那はいつもこっそりと見逃していたのだ。
由羅にもそうするつもりだったというのに、なぜか彼女はおかしそうに笑みを浮かべてしまう。
「私、ちゃんと申請出してるよ?」
「え…」
「うちの学校、校則には厳しく書いてるけど届出さえ出せば簡単に通るから」
じゃあ、本当にただお互い話題に出さず知らなかっただけだということになる。
はやとちりで正義感に駆られてしまった自分に恥ずかしくなっていれば、由羅は晴那の頭を優しく撫でてくれた。
「庇おうとしてくれてありがとね」
彼女の指が、晴那の髪をさらりと撫でる。耳に髪を掛けられて、そのまま頬に手を添えられた。
「…メイクすごく似合ってる」
「全部由羅さんが選んでくれたやつです」
黒目がちな彼女の瞳に、晴那が写っている。ジッと見られていて、気を抜けばそのまま吸い込まれてしまいそうだ。
頬に添えられた手が顎に移り、そのまま、親指で唇の端をなぞられる。
「ちょっと、はみ出てる」
ふふ、と笑われて恥ずかしくなるが、それ以上に今の妖美な雰囲気の由羅にどきどきしてしまっていた。
本当に、大人っぽく、魅力的な人だ。
しかし由羅はそんな晴那の緊張にはちっとも気づかずに、呑気な声を上げている。
「晴那ちゃんもう、お昼食べた?」
「食べてる途中でした」
「いつも、ここで食べてるの?」
素直に首を縦に振る。結局、クラスに親しい人はひまり以外おらず、誰もいない校舎裏で毎日1人寂しく食べているのだ。
「私もこれから、ここで食べていい?」
「え…」
一瞬聞き間違いかと思い、耳を疑う。
寧ろ、それを言いたいのは晴那の方だ。
心にトクトクと温かい感情が流れ始めて、幸せな気持ちに包まれる。
嬉しすぎる申し出を、断る理由なんてどこにも見当たらない。
「…もちろんです」
「やった。じゃあ、食べよう」
由羅はビニール袋からサンドイッチを取り出して、美味しそうに頬張り始める。
晴那も、先ほどの残りを引き続き食べ始めた。
初めて学校で誰かとご飯を食べたが、いつもより美味しく感じてしまう。
強がっているだけで、心はまだまだ弱さを残している。誰かと一緒にいられる方が、晴那にとって幸せなのだ。
そう強く思えるのも、きっと由羅だからこそなのだろう。
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