第9話
仕事を終えてから自宅に戻っても、由羅の普段とは違う様子と意味深の言葉が何だったのか、どうしても気になってしまう。
ベッドに入ってもそれは続いてしまい、布団に包まりながら悶々と考え事をしていたせいか、中々寝付くことが出来ずにいた。
夜に答えの見えない考えごとをしてしまうと、延々と考えて深みにハマってしまう。
結局最後に時計を見たのは深夜の2時を越えており、眠りにつけのはもう少し後だろう。
翌朝、カーテンから差し込む朝日に釣られて目を覚ますが、どうにもスッキリしない。寝起きは悪い方ではないはずなのに、寝不足のせいで目覚めが良くないのだ。
ふわふわと思考がハッキリしない中で、欠伸を噛み殺しながら制服に着替える。
朝ごはんを軽く済ませてから、いつもより20分ほど早く家を出た晴那は、隣のひまりの家に向かっていた。
ポケットから、昨日渡された鍵を取り出す。これを渡してきたということは、インターホンを押さずに入ってこいということだろう。
鍵穴に差し込んで右回転させてから、恐る恐る扉を開く。自宅でもないというのに、鍵を使って部屋に入るというのは変な感じだ。
玄関は靴が一足も出ておらず、全て収納棚に収められているようだった。3人分の靴が散乱している晴那の自宅とはえらい違いだ。
控えめな声で「お邪魔します」と言っても返事はない。まだ朝の7時を少し過ぎた時間だというのに、まったく物音がしなかった。
中はシンとしており、誰もいる気配はない。間取り的に晴那の家と同じ3LDKだというのに、それにしては静けさが漂っていた。
入ってすぐの部屋の扉に「ひまり」と書かれたネームプレートを見つける。
恐らくここが瀬谷ひまりの部屋だろう。
数回ノックをしても、返事はない。
「入るよ…?」
念のために確認をして、扉を開く。中は白と淡いベージュカラーを基調にしており、物も片付いてすっきりとしていた。
端のベッドにはスヤスヤと心地良さそうにひまりが眠っている。
「ひまり、朝だよ」
前屈みの体制で体を揺するが、ちっとも起きる気配はない。
肩を軽く叩いたり、名前を何度呼んでみても、ひまりは一向に夢の世界から目覚めてはくれなかった。
どうしようかと困り果てていれば、布団から彼女の右腕が伸びてくる。
ようやく起きたのかとホッとしたのも束の間、晴那の腕は彼女によって掴まれ、そのまま強く引っ張られてしまった。
「うわっ」
力が強く、踏ん張ることが出来ずにベッドに倒れ込んでしまう。
向かい合う形でひまりの隣に寝転がってしまっている。起きあがろうにも抱え込まれるように体を抱きしめられているために、それは叶わなかった。
「ひまり…?」
「うるさい…」
目を閉じたまま、眉間に皺を寄せたひまりが迷惑そうな声を上げる。
晴那を抱き枕か何かだと勘違いしているのか、見をよじろうとすれば彼女の足が晴那の体に巻きつくように回されてしまった。
「あと5分…」
ちらりと壁時計を見やれば、時間にはまだ余裕がある。
念のためと早く来たため、ひまりの希望通り後5分、10分は寝かせてやれるのだ。
朝起きるのが苦手な人は本当に辛いと聞いたことがある。
声を掛けるのをやめれば、ひまりは再び心地良さそうに眠りに着いてしまった。
その姿がまるで子供のようで、つい笑みを浮かべてしまう。
5分経ったら起こしてあげればいいと、眠っているひまりを起こさないようにジッと動きを止めた。
布団からは甘い香りがして、ベッドは程よいフカフカの感触があまりにも心地いい。
つい、自身の瞼が下がってしまいそうで、慌てて気を持ち直す。今寝たら、二人とも遅刻確定だと気を引き締めるが、昨夜寝不足だった晴那にはあまりにも強い誘惑だった。
寝てはいけないと思えば思うほど瞼は更に下がり始め、気づけば上下が完全にくっついてしまう。
少し目を瞑ったら起きればいい、と考えてしまったのが運の尽きだ。
次第に意識が遠のき始め、思考が遥か遠くへいってしまう。
彼女を起こしに来たというのに、晴那も釣られて眠りの世界へ羽ばたいてしまったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます