ゆらはなひまり
ひのはら
プロローグ
好きだからこそ、意地を張ったのだ。
この世に生まれて16年。
祖父母はもちろん、親戚もみんな沖縄の人で、晴那の世界はあの場所が全てだったのだ。
親族が集まればいつも賑やかで、事あるごとに理由をつけて祖父母の家で集まる。
酔うと親戚のおじさんたちは指笛を始めて、それに合わせて皆でカチャーシーを踊るのが楽しくて仕方なかった。
暖かい気候で、年間で冬服よりも圧倒的に夏服を着る期間の方が長い。
少し歩けば海が合って、よく友達と服を着たまま入って、水浸しになったものだ。
語尾を伸ばして話す方言も、ルーズだけど優しい人柄も。
あの場所が、本当に大好きで、愛おしくて。
唯一の世界を、晴那は本当に心の底から愛していた。
だからこそ、言えなかった。
転校が決まって、東京の高校へ行かなければいけなくなった時、クラスメイトにはもちろん、親友にだって言い出せなかった。
こっそりと東京の高校を受験して、合格を貰っても、喜びよりも虚しくて堪らなかったのだ。
結局、親友に転校することを伝えられたのは、高校1年生の終業式。
最後の最後まで、旅立つことを言えなかった。
『え、晴那転校するの……?』
あの時、親友は酷く面食らったような顔をしていた。
2年生でも同じクラスだといいね、と話していた矢先に放たれた爆弾発言。
狼狽えて、瞳に涙を浮かべる親友の姿に、心は罪悪感でいっぱいだった。
『なんで、言ってくれなかったの』
『…すぐ、戻ってくるから』
ここでも、晴那は素直になれなかった。
両親は東京で本格的に沖縄料理店を構えると言っていたため、すぐに戻ってこれる保証なんてどこにもない。
頻繁に会えなくなることを、分かっていたのに。
涙の雫を溢れさせる親友の『見送りに行くよ』という言葉を、あの時晴那は遠ざけたのだ。
すぐに戻ってくるから、見送り何ていらないと。
旅立つ人だと、思われたくなかった。いなくなる人だと、見送られたくなかったのだ。
誰よりもこの場所が好きで、愛しているからこそ、東京へ行くことを受け入れられなかった。
けじめは勿論、心に整理をつけることもできぬまま、晴那は大好きなあの場所を離れた。
まだ幼く、無力な晴那に為す術はどこにもなかったのだ。
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