来訪者と四大妖怪 3
「・・・・・それで、妖怪が増えたと?」
日課となった屋上での昼食。
この日はいつものメンツにさらに一人加わったことで、なかなか賑やかなものになっていた。
「どーもー、大阪からはるばるやってきた四大妖怪の八重ちゃんやで。」
ばちこーんという効果音がしてきそうなウインクをかまして北斗に挨拶をする八重。それに、北斗、陽光、影月の白い目×3が突き刺さる。
「にしても、ほんまに神さんを宿してるとはなあ。」
そんな白けた空気を気にすることなく、八重はほおおと関心したように北斗を見る。どうやら八重には北斗の宿す麒麟の霊力がはっきりと見えるらしい。
「まあな。人間の俺からしたら妖怪の親玉のあんたの方が随分凄そうだが。」
北斗は昨日、いなり達から転校生が妖怪だということと、敵意がないことを知らされていた。そのため、あまり警戒せずに八重と会話をすることができている。
同様に、八重にも北斗のことは伝えてあるため、八重が北斗を取って喰うなんてことはない。それ以前に、そんなことは絶対ないと三人はほぼ確信していた。
妖怪界がいくら実力主義とはいえ、人望ならぬ妖望を集めるような存在たる四大妖怪が、力を欲するあまり人間を喰うようなちっぽけな奴ではない、なんてことは分かりきっている。
そんな三人の思惑通り、北斗は早々に八重を受け入れていた。
というのも・・・
「そうか?敬ってくれてもええんやで小僧。」
「こんな戦車みてーな奴敬う必要ねーぞ、北斗。」
「ああ?誰がゴリラ女かて?ちょい首かせやワレ。」
「いや言ってねーよ!お前の耳は節穴か!?」
こんな具合で、愁が無自覚に八重をカチンと怒らせ、漫才のような展開を生むという一連の流れが出来上がっていたからである。北斗そっちのけで口喧嘩を始める八重を見ている限り、彼女は神巫にさらさら興味がないということがわかる。
仮にも日本の妖怪の最強の一角がこんなほのぼのいていていいのかとツッコミを入れたくなるが、このようなやりとりを昨日の帰宅時から何度も見ていたいなりと黒羽はもう慣れていた。
『ところで、八重殿はそんな簡単に正体をばらして良いのか?』
そろそろ口喧嘩から手足が飛びだすやも、というところで、影月の言葉が八重の動きを止めた。
影月の懸念はもっともなものだった。
四大妖怪の肩書を持つ妖怪は、その性質上様々な理由で命を狙われやすい。
四大妖怪は実質その土地の総大将的なポジションであるため、妖怪界でかなりの権力を有する。人間の職種で例えるならば、内閣府が四つあるものと思えばよい。そして、その政治に不満を覚える輩が、総理大臣を暗殺しようとするのと同じものだ。
そのため、四大妖怪の多くは代替わりをあまり公に発表しない。秘密裏に行われた代替わりを一般妖怪が知るのは、何十年も後になって、噂として聞くのである。
八重はすぐに握りしめていた拳をおさめて、影月の問いに答えた。
「別に隠してるつもりはあらへんし。そもそも、西じゃあうちの顔を知らへん奴はおらへんで。」
しかし、どうやら西の地は情報にかなり開放的らしい。東の地の一部、東京に住んでいるいなり達には意外な事実だった。それは単に、いなりが半妖怪で妖怪界とはあまり密接なかかわりをもたないという理由からではない。
「東の四大妖怪様はあまりお見掛けしませんよね?」
「そういやそうだな。」
オープンな西に対し、東の四大妖怪は滅多に姿を見せない。それどころか、なんの妖怪でさえ知らない。
ただ、その力は先代である三大妖怪がうち一柱、酒呑童子に引けをとらぬほどと言われており、彼(もしくは彼女)に反抗する者は妖怪は血の
ここでいう反抗する者は、四大妖怪の意向・思想に背く者という意味ではなく、犯罪者という意味で使われる。
見える人間が減ったご時世、人間から攻撃されるなんてことはほぼなくなったが、逆に人間を喰らおうとする妖怪は未だに後を絶たない。
そういった妖怪界の秩序に背く妖怪は悪妖と呼ばれ、妖怪、人間側からともに犯罪者とみなされる。悪妖は四大妖怪や人間の陰陽師によって討伐されるのが常だ。
「同じ四大妖怪同士、東がどんな奴かお前は知らねーのか?」
「知るわけあらへんやろ。昨日の話聞いてへんかったのか。」
「あ」
愁は言われてようやく思い出したようだ。
四大妖怪は互いの土地に不干渉。つまり、それぞれの土地で今、誰が四大妖怪を務めているのかわからないのだ。そのため、西の土地に住む一般妖怪が東の情勢を知るわけがなく、トップである四大妖怪も然りだった。
「だが、姿を見せないにしてもどんな奴か噂くらい流れてくるだろ。」
北斗が首をかしげて問う。しかし、それにいなりはかぶりを振った。
「無理ですね。それすらもあやふやなんです。」
噂というのは人から人へと介するうちに尾びれや背びれ、ついには胸びれまでつける。
東の四大妖怪の素顔というのはそれが顕著だ。
ある人曰く、
全く訳が分からない。
「そりゃ確かにわからんな。」
「ちょwwww待ってwww男装麗人って嘘でしょwww」
呆れたように言う八重。その後ろで、黒羽が腹を抱えて笑っている。北斗も吹き出しそうになるのをこらえていた。愁は「だんそーれいじん?」と疑問符を浮かべていたが。
「せやけどなあ、なんぼ東が大男やろうが男装麗人やろうが、西のうちがいきなり乗り込んできて好き勝手に動き回っとっておもろいわけがあらへんはずなんやで。なのに今んとこなんもけえへん。逆にそれが監視されてるみたいで気味悪いけどな。」
トーンを低くし、考え込むようにつぶやく八重。
確かに、考えることはもっともだ。
人間に化けているとはいえ、四大妖怪レベルの大物妖怪が乗り込んできたことに気づかないはずがない。むしろ、八重が泳がされていると考えた方が自然だ。
「意外と、ただ面白がって見ているだけかもしれないよー?」
「いや、そんな適当な理由なわけねーだろ。」
東の四大妖怪。
それをいなり達が知ることとなるのは、そう遠くない未来だったりする。
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