第19話 太一 18

あまりの、トントン拍子に自分で、ちょっと驚くと同時に、本当に良いのかな?と何度も、何度も合格発表を見直した。

ほどなくして、太一は、司法修習生として、一歩を踏み出した。

佐久間法律事務所と出会い、そして、大先生とであって、なんか、道が開けた気がした。

修習が始まると、いろいろな意味で過酷な日々が続く。

慣れない、出会ったばかりの、年齢も性別もまちまちな人々との集団生活。

毎日、指導教官から、怒鳴られたり、バカ扱いされたり、学校では、一度も先生に怒られたりはしなかったので、戸惑い、頭はフル回転しているのに、その回転は、空回り状態。

冷静になれ、冷静になれば、正しい答えが見つけ出せる。

そう、自分に言い聞かせる。


そんな、いっぱい、いっぱいな状況で、唯一ほっとできるのは、食事の時間だけ。

寮の自室は、かえって、不安になる。

皆、集まって、課題を解こうとしているのではないか、いや、それぞれのへやで、猛勉強しているのではないか、なんか、負けてはいけないと言う、変な競争心にあおられていて、落ち着かない。

その点、食事の時間は、ライバル達も目の前で、ひたすら、口に食事を運んでいる。

この時間は、誰もが、食事に夢中で、だれかが、抜け駆けするような事もない。

修習生なので、勉強させてもらっているだけで、出世に響く訳でもなければ、基本、蹴落とされるわけではない。

勿論、大きな不祥事を起こせば、その限りではないが、受けるべき講義を受け、ごく普通にやるべき事をやって常識的に行動していれば、最期試験を受け、普通は、進みたい道に大抵の人は、進む事が出来るはず。

まあ、この研修では、司法に関わるものとして、適性も見られているらしく、裁判官や、検事に関しては、「認められて」初めてなれる。

実際のところは、誰が、何を認めるのかはよくわからないが・・・

実際の所は、ちゃんとチェック項目があるのは、解ってるけど・・・・

僕の目標は、弁護士だから、まあ、振るい落とされる事は、滅多の事がない限りないはず。

それでも、皆がライバルに見えて、少しでも自分が「できるやつ」と周囲に認めさせたいという変な焦りが、沸いて来るのは、いったいどうしてなのだろうか。


その食事のとき、なぜか、いつも隣にいるのが、浅井富美子。

外見は、可愛い。

でも、勉強しかしてこなかったのか、少し、何かが欠落しているような気がするが、まっすぐで、正義感の強い、優しい子だと思う。

気づくと、おいしそうに食事をする彼女を見つめている自分に気付いた。

少しずつ、距離が縮まっていく、彼女の出身校、家族環境、年齢。

てっきり年下かと思っていたら、3歳も上だった。

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