異能らいふ~学園の底辺から最強目指します~
吉城カイト
第1話 始まりの始まり
いつもの稽古のあとで話があると、少し険しい表情をした父に呼び出された。
「翔太。お前を……破門とする」
「は、え……な、なんでだよ。あの技を身につけた程度でか? 待ってくれよ、父さん!」
「もう決めたことだ。それにあれは禁忌の技だと何度も言っただろう。勝手にお前が極めたにすぎん。俺は一度止めたはずだ」
「かっ、考え直してくれよ! むやみに使わなければ大丈夫だって。試合で使うわけないじゃん」
「ダメだ。その上お前は『異能』までも発現させたのだ。……お前を例の学園に転校させる手続きはもうしてやった」
「勝手なことをするなよ!」
「勝手なことをしたのは、お前の方だ。もうここには戻ってくるなよ、翔太よ……」
「ちょっと待ってくれよ。もっかい話せばわかるって! ねえ、父さん!」
**
「最悪の寝覚めだ……そういや久しぶりにこの夢を見たな……」
携帯のアラーム音で悪夢から起こされた俺は、汗でべたついたシャツを脱ぎ捨てた。嫌な夢をぬぐうように、そのまま洗面所へと向かい顔を洗う。……父さんに破門にされてからだいたい一年くらい経っただろうか。
武術の名門である黒崎家の長男として生まれた俺は、小さい時から真摯に武術に取り組み、周りから秀才ともてはやされるほどの力を発揮したのだが、ある掟を破ってしまった。父さんは禁忌の技と呼んでいたが、俺はこっそりそれを練習して会得しようとした。まあそれがバレて家を追い出されたわけだが……。
もう一つ俺が家を出るきっかけになった理由がある。
「できっかな……」
広げた手のひらにイメージと力を収束させる。僅かな光と分子が物体の輪郭を形作り、やがて俺の手のひらに一つの歯ブラシが生成された。ご丁寧に歯磨き粉までついてある。俺はそれを口にくわえながら朝の仕度を進めた。
異能を手に入れてからずいぶんと慣れたものだが、この奇妙な力は誰にでも与えられたわけじゃない。2●●●年、日本において一部の思春期の少年・少女たちに突如として『異能』の発現が確認された。
当時科学者たちが躍起になってその理由を調べたのだが、ついぞその詳しい
誰もが抱いた疑問だろうが、いったいだれと闘うというのだろうか。
平等を重んじる今の社会において、この『異能』というのはだれの目にも明らかな格差であり、差別対象であったのだろう。そんな力を手にした者がたどり着く先は、言うまでもなく排除である。一つの腐ったミカンが、箱全体のミカンを腐らせるの防ぐために、そのミカンをとり除く。まさしく俺たちはそんな扱いを受けた。
大人たちから「災害の子」だと中傷を受け、心がすさんだやつがいたんだろう。
実際には数年後に起きた、差別を受けたという一人の異能者が死傷者300人にも上る大事件を起こしたことがきっかけとなり、『異能を持つ者は危険だ』という観念のもとで俺たちを恐れた政府がとある学園を作り出した。
そう、その学園こそが俺が通うことになった「都立太陽ヶ丘異能育成学園」である。異能者を正しく導くという校風を置いているが、その実情は学園という名で俺たち異能者を縛り上げた一つの隔離場所にも思われる。
ちなみに破門当時、俺が発現した『異能』は『
つまり戦闘に優れていない方の能力ってわけ。
別に誰かと闘いたかったわけではないが、くだらない能力のために破門にされてしまったわけだ……。あー思い出しただけで腹が立ってくるなこれ。本当にこんな能力をくれた奴、まじで許さねえ。神様のいたずらにしろたちが悪すぎる。一度ぶん殴ってやり……っと、いけないいけない。暴力的な考え方には気を付けないとな。
というか、今の俺の能力は違うわけだが……。
仕度を整えた俺は早々に寮を出ることにした。女子寮に比べて男子寮はなぜか校舎までの距離が少し遠い。遅刻したら何と言われるか。校門には出くわしたくない奴がいるんだよ。
扉をキーでロックしたところで、お隣さんが出てきた。
「おっす」
「早いなー翔太。お前なんか仕事でもあったっけ」
「別に。早くいかないと校門で待ってる例の人いるだろ?」
「あー、はいはいなるほど。あ、ちなみに俺は『六魔』の仕事だけどな」
「別に聞いてねえから」
二人並んで寮から通路を歩いていく。先を歩いている他の生徒たちをぼうっと見つめながら歩いていた俺は、模擬場で異能を行使している二人組に目を向けた。朝からお盛んなこって。序列の入れ替えを目的にやってるのが大半だろうな。
「んでさぁ、そん時……って、聞いてんのか? 翔太」
「……ぁあ、悪い。聞いてなかった。何の話だっけ?」
隣を歩くいかにもチャラそうな茶髪の男に意識を戻す。ピアスこそしていないが、染めた髪に着崩した制服からはおよそ真面目な人間性は感じられない。
彼の名は、
あー羨ましい。チャラいくせに。いや、チャラいけど実力は本物だ。
ちなみにだけど、俺はわけあって序列に入っていない。昔は非戦闘系の能力だったが、今は戦闘系の能力を持っているために一度非表示状態になっている。
「だーから六魔の仕事なのに、なぜかあの人も参加することになってな」
「一緒にやるのは別に普通じゃないのか?」
「一応区分わけはされてるわけよ。生徒間の問題は生徒会がやる、俺たち六魔はやつらの監督ってな」
どこか不服そうに大輝が口を尖らせた。
大輝がさっきから言う六魔とは序列一位から六位までを集めた「第六魔導生」のことを指す。ほとんどの生徒は通称である「六魔」で通じる。学園最強を名乗る彼らはそれなりに応じた仕事が与えられるため、わりと忙しいようで朝から仕事なのもざらにあるとか。
だが、義務には総じて権利がつきものである。六魔たちには個人所有権の認可及び学生生活においての優遇扱いがある。まあこればっかりは本人に聞かないと詳細はわかんないけど。
というか、コレって差別だよね。差別は良くないと思うよ、俺は。日本の学歴社会も問題だと言われているが、異能の世界でも結局は強い奴が上に来るシステムかよ。
別に羨ましくないし、なんかうまく言えねぇけど、こう……爆発しないかな。
「ま、お前もいつか六魔に入れば一緒に仕事できるのにな」
「そりゃ……無理だろ。というか、不可能だと言える原因の大半は大輝にあるんだけど」
「あー? たかが封印したくらいでそんな弱気になるなよ。代わりにお前にいい能力あげたじゃん。けっこうコネ使ったんだぞ」
「たかがってなんだよ。俺にとって武術は魂だぞこの野郎!」
「悪かったって! あんときも任務だったんだからしょうがないだろ。というか、一年前にお前が暴れてたから通報入ったんじゃん」
そうだ。俺が一年前に何をしていたのかというと――。
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