1.家族との関係性‐彩葉side

 樹深彩葉は緑色の糸が幼い頃から見えていた。それは、大学生になっても変わらない。きっとこれからも変わらないだろう。


“家族の糸の絆を大切にするんだよ、彩葉”


 彩葉の祖母──樹深たつみよみが亡くなる直前に、彩葉に言った言葉。この言葉は、彩葉の中でとても大切だ。そして、緑色の糸が、よみにも見えていた。だが、彩葉の父親──樹深樹たつみいつきと彩葉の母親──樹深楓たつみかえでは違う。樹と楓は見えるものだけを信じているから、彩葉とよみの事をよく悪く言っている。それはよみが亡くなってからより、酷くなった。だから、彩葉はより一層、こう想うようになっていた。


“私だけの、大切な家族が欲しい”


 その事を知っているのは、亡くなったよみだけ。そして、よみはよくこう言ってくれた。


“大丈夫、必ずいるよ。今はおばあちゃんがいるだろう”


 そう言って、よく、彩葉を抱き締めてくれた。今はもう彩葉を抱き締めてくれる人はいない。だけど、よみが言った“大丈夫、必ずいるよ”の言葉を心の支えにしている。


 そして、今日は大学の入学式。入学式が行われる場所は広く大きい。だから、人もたくさんいる。それに圧倒されながらも、空いてる席を探す。


(ん?)


 左の薬指に違和感を感じ、そこを見るとそこに在る緑色の糸が1本増えていた。


(どういう事?)


 家族である人と繋がっている緑色の糸。彩葉が幼い頃は樹、楓、そして、父方、母方の祖母と祖父達と繋がっていたから、8本の糸が在ったが、時が経つに連れて、2本にまで減った。これは仕方がないこと。でも、増えたことはなかった。経験したことがないことだが、彩葉の中に淡い期待が生まれる。


(この先にいる人と、家族になれるってこと?)


 その淡い期待を胸に、3本目の緑色の糸をたどることにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る