辺境暮らしの農家ドラゴン

張果仙人

第1話 勇者乙

 レイティング神聖王国北東部“黒き森”を挟んだ先にその地はあると言う。

      “恵みの台地”

 年中農作物に溢れ飽食を約束される台地、其処に住む事が出来れば飢餓とは無縁の一生を送れる楽園。

 伝説でも誇張された話でも無く、事実上存在するその“恵みの台地”に人類至上主義であるレイティング神聖王国は長年、黒き森を切り開き、道を作り野心と共に軍を進めて・・・

 敗走する事65年、毎年の如く敗北する王国が藁を掴むようにすがった手段は古代の遺跡より発掘された伝説の《勇者召喚ラチセンモンの儀式》異界より“都合の良い”適合者イケニエを呼び込み、丁重に歓迎センノウし、コツコツと武勇伝チョウシニノセテを積ませ、台地の悪魔シュゴシャとの決戦ドウシウチに挑んでもらおう、と画策する。

 無論、台地解放ブリョクゴウダツ報酬ウソハッピャクも欠かせない、賞爵アンサツの約束もするし、勇者送還ジジツムコンの儀式も承諾書フトウケイヤクを書き記そう、金銀財宝ミセガネだって用意する、むしろ王女との婚姻キョギニヨルシケイも視野に入れて置こう。

 準備ゾウゼイ準備ゾウゼイを重ね神聖王国暦66年、儀式が執行される。

 記録に寄れば第1回から第30回迄は録な勇者イケニエは現れず、召喚されるのは、ただ自己主張が激しく2言目には嘘関知センス・ライの魔道具が反応する穀潰しで、選民主義を主張し戦闘訓練も2日目にはサボり自身の無能を棚に上げるモノばかりだったと言う、以降『頬エラが張り』『目が細く』『狐か鼠の様な』人種は戦闘訓練を3日以上続かない場合即処分して次の召喚に移ったらしい、また悪魔シュゴシャの前に打ち入ったヤミウチシタ場合でも敵前逃亡する為に名誉有る戦死キョウセイジバクをしたと言う、無論機密情報の為に後世に残ってはいるが《名誉有る勇者を讃えるモニュメント》には一切名前を刻まれて居ない、ただ削り抉られているだけである、彼のモノ達は当時の王国民からも忌み嫌われて居たらしい。

 《名誉有る勇者を讃えるモニュメント》に名を遺す者でも台地の悪魔シュゴシャに戦いを挑まず讃えられた者も多い、代表格と言えばそう、名前より『トマトとパスタの伝道師』で有名な勇者であろう、死に様は喜劇コメディと同じく『勇者の仲間ミハリヤクが目を離した隙に水を汲みに一人で“黒き森”に入って遭難し川辺でパスタを茹でているところをゴブリンに襲われて死去』ゴブリンにさえもパスタ文化を伝えたとされる彼である。

 そんな勇者召喚の儀式を乱発し異世界の文明文化を取り込み肥大化したレイティング神聖王国も今はもう無い、モニュメントに名を残さなかった最後の勇者に裏切られ台地の悪魔シュゴシャの手によって滅んだからである。

 彼の者は鍛冶の匠、亜人種であるドワーフをも『狂気の武具』と言わしめる『ユナイテッド・ブレード』(ドワーフの文献では『ニホン・トウ』と言うらしくその違いは鍛冶の匠しか理解出来ない、曰く『256層などアホじゃろう』らしい)を自ら打ち上げ、どういう理屈かをも切り飛ばし敵対したモノの首を執拗に狙う、そうあの《クビオイテケ》である。

 今はもうレイティング神聖王国は無い、崩れた王城と立派なモニュメント、後はて彼岸花に覆われた王都跡だけである。

 この地はそう台地の悪魔シュゴシャのメッセージである『台地に手を出すな、欲望に囚われたモノの末路を此処に遺す』

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