第4話

 日常生活を送る事一週間。それなりに動けるようになったかもしれないと思い始めた頃に旅立ちの日になった。

 この日は王国の建国記念の日。特に何を考えたわけではなかったが、丁度良い区切りという事で前々からこの日と決めていた。

「じゃあ、行って来ます。手紙は出すけど、戻ってくるのは冒険者を辞めた後か、子供が出来たときだから」

村の門の前で両親に告げる。その横ではエリーがエリーの両親と抱き合っていた。

「変な男に引っかかることはないと思うけど、気をつけるんだよ」

そんな事を言っている。子煩悩な親御さんだったから辛そうだ。

「エリー、そろそろ時間だ」

ここから町まで歩いて半日とちょっと。そろそろ行かないと宿が取れなくなる可能性がある。

「うん。・・・・・・お父さん、お母さん、お達者で」

そう言いつつ、エリーは振り返り振り返り俺を追いかけその場を後にする。手には今日の昼に食べるだろうランチボックス。腰には真新しい鉄製の剣。背には俺が狩ってきた猪の革で作られた俺考案の(と言う事になっている)リュックサック。俺もほぼ同様だ。


 道中は他愛ない会話を繰り返しつつ、偶に小動物を狩りつつ、のんびりと歩いて風景を楽しむ。まだ春先だから野草も背が高いこともなく、見晴らしよくどこまでも緑の絨毯が広がっている。それでもぽつぽつと色とりどりの春に花を咲かせる草が群生していて飽きることなく歩かせてくれる。

 途中、暴れ牛ライオット・バッファローが商隊の列に突っ込んでいたのを助けたりしながらえっちらおっちら歩き続けて夕方遅くに、アンガーストンに到着した。

 門の前では先ほど助けた商隊が列を作って入門の順番を待っており、俺達はその後ろに並んだ。

 日が落ちた頃入門でき、俺たちが通った後その背を追うように門が閉まった時には肝の冷える思いだった。

 何はともあれアンガーストンと言う街に足を踏み入れた俺達は門番のアドバイス通りに冒険者ギルドへ向かう。

 冒険者ギルドは今の時間ならそこまで込んでいないし、薬草を積んできているなら買い取ってくれるし、動物や魔物を狩ったのならそれの素材も買い取ってくれる。さらにはおすすめの宿を教えてくれるし、遅くまで食事の提供もしているらしい。

 門番の話を半信半疑で聞きながら、俺達は連れ立って冒険者ギルドの門を叩いた。暴れ牛の皮が重いのと暴れ兎ライオット・ラビットの皮と肉がかさばってしょうがないのもある。

「こんばんは。・・・・・・買い取りですか?」

「はい。お願いします」

冒険者ギルドに入って物珍しげに辺りを見ていたからか、お手すきのカウンターから声がかかった。

 説明されつつ促されて買い取り願いの暴れ牛と暴れ兎の皮、それと肉類も重ねていく。

「えっと、暴れ牛の肉類はどういたしましたか?」

「かさばるので商隊に譲りました」

「そうでしたか。見てみたかったですねぇ。これだけの立派な皮ですから肉も最上級間違いなしですよ」

暴れ兎の鑑定中、受付のお姉さんが暴れ牛の皮を撫でつつそんな事を言う。

 対応しているのは若干不機嫌そうなエリーだ。

 俺が対応しようとしたらお尻に鋭い痛みが走ったので任せたのだ。

 暫くすると暴れ牛の皮の査定まで(暴れ牛は最後の査定だった)終わり、銀板二枚が手渡された。この世界の通貨は銅板から始まり、十枚で銅貨、その十枚で鉄板とグレードが十枚ずつで上がっていく。  鉄貨、銀板、銀貨、金板、最後に金貨だ。金貨だけ金板の次に小金貨、次に大金貨となる。故に物価の安いこの世界で銀板の収入はかなり大きい。質素な生活をすれば半月ぐらい働かなくても暮らしていける。ブスッとしていたエリーがにっこりする程だ。


 立ち去る前に今でも受け付けている宿屋を二、三軒教えて貰い、一軒目の宿屋に決めた。一人銀板一枚で5日間泊まれる上に部屋の見学も行える。更に夕餉も出ると言う事で実際に試してみた結果だ。部屋の見学は泊まり客の居ない空き部屋全てを回れ、全室清潔な雰囲気で店主の雰囲気も普通。看板娘だという十歳才のレイラちゃんは快活で人当たりが良い。

 カウンターで料金を払い、ついでに暴れ兎の肉を二羽店主に渡して部屋に一旦上がる。部屋は先ほど見た通り隅々まで清掃が行き届きベッドメイクもしっかりしている。備え付けの椅子や机も経年劣化で少々がたついているが、そこは致し方ない。良く磨かれていて大事にされていることが伝わってくる。

 荷物は置かず、手に持って一階に戻り食堂に入る。念の為鍵はかけてきた。エリーも大体同じらしい。

 出された料理はホワイトシチューと一口サイズに切られた兎の塩焼きへ蕩けたチーズをかけたもの、ライ麦パン。それから兎肉のお礼に炭酸水で薄めた度数の低いエール。・・・・・・豪華だな。

「兎肉、ありがとうよ。少し肉の値段が上がってきてて四苦八苦してたんだ」

店主自ら配膳してくれ、立ち去る時にそんな事を言っていた。立ち去る店主の後ろ姿は鼻歌でも歌い出しそうな程ウキウキしているように見える。

「いただきます」

暫くその後ろ姿を見送っていたが、まぁ、良いかと言葉にできない疑問を飲み込んで出された料理に手を着けた。

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