第3話:葛藤

「心の声だと、そんなものは存在しない。

 もしあるとしても、そんなモノは単なる心の迷いだ、無視しろ」


「はい、ボスヴィル兄上。

 アースキン公爵家の令嬢らしく、心を強く持って迷わないようにしますわ」


「そうだ、それでこそアースキン公爵家の令嬢クリステルだ。

 さっきも言ったように味方を集める事が大切だ」


(ダメよ、絶対にダメ、貴族を信じてはダメなのよ。

 よく周りを見るのよ、本当に誇り高い貴族などほとんどいないわ。

 味方にしたつもりでも、簡単に裏切るような連中よ。

 最初はアースキン公爵家の権力に媚びて味方していても、借金を棒引きすると言われれば簡単に裏切るような連中よ。

 そんな連中をアテにしていては足元をすくわれてしまうわ)


「うそよ、そんな嘘を言っても騙されないわ。

 貴族は誇り高いのよ、恥知らずな貴族がいたとしても少数よ。

 今私が聞いているのは私自身の弱さよ」


「おい、クリステル、しっかりしろクリステル」


(兄上に私の言葉を伝えるのよ。

 私の言葉が信じられないのなら、兄上に伝えて確かめて。

 いえ、兄上は単純すぎるから駄目よ。

 父上と母上に話して、父上と母上は貴族としての経験があるわ。

 クリステルは自分達の方が父上や母上より経験があるとでも思っているの。

 ちゃんと私の言葉を父上と母上に伝えて。

 クリステルのプライドの為に歴史あるアースキン公爵家を潰す心算なの。

 バカン伯爵家が金の力で貴族を抱き込む可能性を確認して)

 

「兄上、聞いて下さい兄上、私の心の声を聞いて下さい」


「分かった、分かったから落ちつけクリステル。

 今の姿はアースキン公爵家の令嬢として失格だぞ。

 まずは落ち着いて全部話すんだ」


「はい、兄上」


★★★★★


「なるほどな、クリステルの心の声は間違ってはいないな。

 金か、確かにバカン伯爵家の金の力は厄介かもしれん。

 歴戦の傭兵を集めるには莫大な金がかかる。

 食糧は民から徴発すれば済むが、武器は金を出して買わねばならん。

 だがいくら金の力が厄介だとはいっても、下級貴族が公爵家に逆らうとは思えん。

 思えんが、父上や母上に相談しないというのは不味かったな。

 それは確かに俺の失敗だった、それは認めよう。

 事はアースキン公爵家の名誉にかかわることだ。

 私とクリステルだけで決めていい事ではなかった。

 ちゃんと父上と母上に相談して、アースキン公爵家として動くべきだった」


「分かりました兄上。

 では一緒について来ていただけますか、兄上」


「ああ、任せろクリステル。

 大切な妹が恥をかかされたのだ、アースキン公爵家が一致団結して抗議すべきだと父上と母上に申し上げよう」

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